チャットモンチー 2017年3月9日 新潟LOTS

チャットモンチー
2017年3月9日
新潟 LOTS
「チャットモンチーと機械仕掛けの秘密基地ツアー2017」

 「チャットモンチーと機械仕掛けの秘密基地ツアー2017」と題されたツアーの初日。今回のツアーは、アルバムのリリースツアーではなく、機械=パソコンでの打ち込みを導入した2人体制でのライブであることぐらいしか事前情報がなかったため、自分も含めてオーディエンスには独特の期待感と緊張感が漂っていた。秘密基地を意識したものなのか、ステージ上にはオブジェやツタのような植物が飾り付けられ、雰囲気を作っている。

 定刻を少し過ぎたあたりで客電が落ち、オープニングSEらしき音源が流れ始める。打ち込みと思われる様々なSEが飛び交うなかを動く、休符をうまく使ったメリハリの効いたベースラインが印象的な音源だ。まだオーディエンスも緊張が解けず様子見といった感じで、この時点では特に手拍子が起こったり、歓声があがったり、ということは無い。ステージ上にチャットモンチーの2人が登場。ここで、オーディエンスから歓声があがる。同じく2人体制だったアルバム「変身」時のツアーでは、橋本さんがギター、福岡さんがドラム、という編成が基本になっていたが、2人ともステージ上に向かい合うように設置されたシンセサイザーの前に座る。オーディエンス側から見て、左側に福岡さん、右側に橋本さん。期待が高まるなか、ライブがスタート。

 1曲目は「レディナビゲーション」。打ち込みによる均一な音質のドラムに、2人が演奏するシンセサイザーが加わる。シンセサイザーの音色は、いわゆる「バキバキ」と形容されるようなEDM的なものではなく、柔らかい電子音。アルバム「YOU MORE」に収録されている「レディナビゲーション」は、イントロから歪んだギター、硬い音質のベース、ヒット毎に強弱のついたドラムが絡み合う、音源で聴いてもライブ感の溢れる楽曲であるため、今回の打ち込みのリズムとシンセサイザーの音質との差異が際立って感じられる。また、2人ともモニター用にヘッドホンを装着しているのも、今までのチャットモンチーからすると特異である。

 1曲目が終わると、橋本さんは「こんばんは、チャットモンチーです! 今日は私たちの秘密基地へようこそ!」、福岡さんは「100畳ぐらいしかない、500人ぐらいしか入らない、家ですけど、来てくれてありがとう! 一応、家なんで、家の体なんで、お茶でも飲みながら観てってな!」と挨拶。今回のツアーは、チャットモンチーの家にみんなが遊びに来た、というコンセプトらしい。

 2曲目「隣の女」、3曲目「恋の煙」も、「レディナビゲーション」と同じく打ち込み特有の均一な音質のビートに、2人の電子音然とした音色のシンセサイザーによる演奏が続く。3曲目「恋の煙」は、アルバム「耳鳴り」などの収録の音源では、高音弦を使った、鋭く歪んだギターのイントロが印象的だが、このギターもシンセサイザーに置き換えられている。音源とは全く耳障りの異なる、柔らかな音質のシンセがおなじみのイントロを弾き始めると、オーディエンスからは歓声とどよめきが起こった。

 「恋の煙」の後には、長めのMC。

橋本「皆さん、新潟の方ですか?」
(オーディエンスの多くから「はーい!」の声)
橋本「新潟にチャットモンチーが来たっていうか、みんなに来てもらったっていうか…設定が難しい、初日やから(笑) むずいなぁ。チャットが前に来たのが2012年だったんだって!……5年ぶりやん!」
福岡「それ、今ずっと計算してたの!?笑」
橋本「なんか2016か17か分からんくない? 早すぎて、むしろ18かなっていう。無い!? そういうとき。」
福岡「それはいわゆる、えっちゃん病ってやつ(笑) でも、平成が分からんくなるのはあるよね。」
橋本「うん、それにいたっては、迷いすらできない(笑)」
福岡「次の曲も、メカットモンチーでやるんですけど、今日、誕生日の方っていますかね?」
(オーディエンスの2人から手が上がる)
福岡「おった!」
橋本「しかも友達同士? 同じ誕生日? 同い年で? もしかして病院まで…」
(オーディエンスと福岡さん爆笑)
橋本「もし、そうだったら運命やなぁって思って(笑) でも、すごいな友達同士で、こうやって。」
福岡「私は病院まで行くえっちゃんの感性がすごいなと思った(笑)」

 MCの後の4曲目に演奏されたのは「バースデーケーキの上を歩いて帰った」。3曲目までと変わらず、打ち込みのドラムに2人のシンセサイザーという体制。ドラムのリズムが流れ始めると、福岡さんが「この陽気なリズムに合わせてやろうと思います!」と言い、2人がシンセを弾き始める。福岡さんの言葉通り、トロピカルな印象の陽気なリズムパターン。また、シンセの音色も3曲目までと比べると温かみの感じられるものになっており、だいぶ印象が変わる。

 「バースデーケーキの上を歩いて帰った」の後にも長めのMC。

橋本(シンセで黒電話の呼び出し音を鳴らす)
福岡「あ、電話! もしもーし!」
橋本「…もしもし、あっこちゃん? 今、何してる?」
福岡「今ねぇ、500人と会食してるよ。」
橋本「そっか、えっちゃんは今、暇してるんだ。なんで、なので、そっちに遊びに行ってもいい?」
福岡「じゃあ、おいで!」
橋本(シンセで車のエンジン音を流す)
福岡「だいぶ、いかつい車、乗ってるなぁ(笑)」
橋本(シンセで急ブレーキの音を流す)
福岡「出ましたー、4速でそのまま止まるやつ!」
(橋本さんが福岡さんの隣に移動する)
橋本「来たよ。」
福岡「お茶でも出そうかと思ったんやけど、今ちょうどお茶切らしてて、ドンペリしかないけどいい?」
橋本「うん、いいよ別に。ドンペリで。」
福岡「飲めへんやん(笑)」
橋本「じゃあ、ちょっとラップしますね。」

 上記のMCに続いて、5曲目は「ぜんぶカン」。この曲では、橋本さんがシンセサイザー、福岡さんがドラム。アレンジは、ここまでの曲に比べると、シンセの音色も含めて、アルバム「共鳴」に収録の音源に比較的近い。演奏後には、またMC。

福岡「じゃあ、私もえっちゃん家、遊びに行こうかな。」
橋本「いいよ。」
福岡「私も愛車で行くわ。」
(シンセで馬が走る音を流す)
橋本「馬なん!? 愛車、馬なん!?」
(2人とも、橋本さんが元々いたステージの右側に移動)
橋本「むっちゃ狭いやろ?」
福岡「むっちゃ狭い(笑) でも、なんか、いいですよ、えっちゃんぽい。犬の毛、いっぱい落ちてるし(笑) ビギンのね。あの物販のビギンノートってやつ、えっちゃん家の犬ですからね。あんな顔してるんですよ、でもなんか、えっちゃんに似てるよね!」
橋本「ほんと?」
福岡「嘘ついて、どうするん(笑)」

 ここから、6曲目「余談」、7曲目「CAT WALK」は、ここまでのライブとは打って変わってアコースティックなアレンジでの演奏。「余談」は、橋本さんがアコースティック・ギター、福岡さんがベースで、打ち込みは使用せず。「CAT WALK」は、橋本さんがアコースティック・ギター、福岡さんが元々の位置に戻りシンセサイザー。打ち込みによるSE的なイントロが足されており、2人の演奏が加わっても、引き続き打ち込みの音源との同期による演奏だった。

 「CAT WALK」の後にも長めのMC。ツアー初日ということもあってか、この日はMCで色々な話を聞くことができた。

福岡「次の曲はですね、5年前にやった曲で、次のシングルにも入る曲です。えっちゃんがほとんどチョコレートのケーキが好きって曲ですね。」
橋本「そうなの。でも決してそれだけの曲ではないよ。そんなの、メロディーに乗せんでもって思うやん。」
福岡「私もほとんどチョコレートのケーキは好き。ケーキそんなに食べへんやん? でも、ほとんどチョコレートのケーキは、食べようって気になるんよ。なぜなら…ワインに合うから。」
橋本「大人ぁ。すごーい。」

 8曲目は「ほとんどチョコレート」。上記のMCで福岡さんが紹介しているとおり、2011年のCOUNTDOWN JAPAN、2012年4月のキューン20周年イベントなど、数回ライブで披露されたのみで音源化されていなかった楽曲。橋本さんがギターをエレキに持ち替え、福岡さんはシンセサイザーを担当。加えて、この曲でもリズム楽器などが打ち込みにより同期されている。

 8曲目「ほとんどチョコレート」の後にもMC。

福岡「今日、初日でセット初めて組んだんですけど、めっちゃかわいくないですか?」
(オーディエンスから「かわいいー!」の声)
福岡「すごい、ガレージ感というか。なんか、えっちゃんの方にもメーターついてますしね。」
橋本「そうなの、これ体重計。この青いのやつ。青いのやつ(笑)」
(ステージ上の橋本さん側に青い体重計のようなオブジェがある)
橋本「これ、なんキロぐらいあると思う?」
(オーディエンスから「5kg!」「30kg!」などの声があがる)
福岡「えー、58kg!」
橋本「たぶん、5グラムぐらい!」
福岡「どういうこと? めっちゃ軽いん?」
(橋本さんが片手で軽々とオブジェを持ち上げる)
福岡「まぁ、5グラムは嘘やけど(笑)、50グラムぐらいかな。そんな軽いんじゃ!」
橋本「そうだよ。知らんかったやろ、あっこちゃん。」

福岡「今日のお客さん、いいっぽい顔してくれたから良かった。もう、何回変身すんねんってすごいつっこまれて。一昨日、4月に出るシングルの取材があったんですけど、何回変身するんですかぁ、ってめっちゃ言われて。数え方によっては5期って言われたよな。」
橋本「でもねぇ、ちゃんと数えたら7期ぐらいあったわ。どこまで遡るかって話にもなるんですけど。」
福岡「だから、ここにいるお客さんはすごいよ!」
橋本「ほんとですね。なんか、変身するたびに、ふるいにかけられてる気がして。」
福岡「ああ、どんどん脱落して落ちていくっていう(笑)」
橋本「そう! でも、ふるいにかけた分、安心感があるんよ。この人たちの前だったら、何しても行ける気がするって思えるんです。10周年越えたあたりから、そんな気がしてる。」
福岡「だから今日、家感があるのかな。本当に、ありがとうとしか言えないです。」
橋本「そうですね、ありがとうございます。」

福岡「ちょっと機械の説明もしたいんやけど、なんて説明したらいいか分からんなぁ。」
橋本「基本的にパソコンと繋がってて、そのパソコンから出てる音は全部あっこちゃんが作ってて、ギリギリまで音の大きさとか調節して、皆さんに届いています。2人で、生でできることって限度があるんですね。なので、積み重ねて作ってきたものを、一緒に鳴らすことで、ライブできてます。えっと、そんな感じかな?」
福岡「うん、ちょっと感動したわ。そういう説明を求めてなかったんやけど(笑)」

 9曲目「変身 (GLIDER MIX)」は、group_inouによるGLIDER MIX に基本的には忠実なアレンジ。10曲目「8cmのピンヒール」では、橋本さんはエレキギター、福岡さんがドラムを担当し、徐々に打ち込みとシンセサイザーを多用したメカットモンチーから、生楽器主体のアレンジにシフトチェンジしていく。

 11曲目「消えない星」では、引き続き橋本さんギター、福岡さんドラム、ベースなどは打ち込んだものを同期しているようだった。同期がうまくいかなかったのか、一度演奏をスタートしてから、福岡さんが「ごめんごめん、もう一回やっていい?」と言って、セッティングを確認してから再びスタート。この曲は音源に忠実なアレンジだった。演奏後には、福岡さんが曲のスタートがうまくいかなかった理由を説明。曲によって音色を変えていて、パソコンとシンセサイザーの音を混ぜて出しているが、パソコンから送られてくる信号が「8cmのピンヒール」のままの設定で出力してしまった、とのことだった。

 12曲目は「majority blues」。「消えない星」同様、現在の2人体制になってから音源がリリースされている楽曲なので、こちらも音源に忠実なアレンジで演奏された。

 ライブで初めて演奏すること、チャットモンチーは詞から先に作るが、この曲は曲から先に作ったことを紹介し、演奏されたのは「Magical Fiction」。この曲では橋本さんがシンセサイザー、福岡さんがドラムを担当。ベースなどは打ち込み。

 14曲目は「こころとあたま」と「湯気」を、メドレーのように2曲をシームレスに繋いで演奏された。この2曲では、福岡さんは引き続きドラム、橋本さんは「こころとあたま」ではシンセサイザーを担当、間奏でシンラインに持ち替え「湯気」のイントロを弾き始める。アルバム「変身」時の演奏のような、ライブ感の溢れる演奏。

 本編ラストの15曲目は「満月に吠えろ」。アルバム「変身」収録の音源に近いアレンジだが、イントロのギターソロをもう1回繰り返していた。間奏のギターソロも、途中から音源とは違い上昇するなど、ところどころ違うところがある。個人的には橋本さんのギターの音、フレージが大好きなので、こういう変化は嬉しい。

 アンコールでは、まず客電が点灯し、打ち込まれた音源が流れ始める。しばらくして、2人がステージに登場。2人とも背の高い帽子と、白い手袋を着用し、手品をやる体で、帽子からTシャツやタオルなどのグッズを出していく。確かに、流れている音源は手品を連想させるような音だった。福岡さんによると物販の紹介が苦手なので、このような紹介方法になったとのこと。

橋本「アンコールでは、カバーをしようと思って…GO!GO!7188の、いつかやりたいなと思ってて、今日やろうかなと。」
福岡「19歳ぐらいの時に、香川のMONSTER BASHっていうフェスにえっちゃんと一緒に行ったんですよ。その当時も2人だけで、ドラムが決まらなくて、全然バンドうまくいかんなぁって時に、そのフェス見に行ったら、先輩なんですけど、同世代のGO!GO!7188さんがバリバリやってて、2人でうわぁーって泣いたなぁ。なんでこんな風にできんのやろーって。」
橋本「うん、めっちゃ泣いたなぁ。青春ですよね、10代でフェス行って、やるぞーってなるって。その時にこの曲もやったのよ、瑠璃色って曲なんですけど。すっごい、いい曲やなぁ、って思ったんです。あと、もうひとつ言っていい? 初めてGO!GO!7188のカバーやったんですけど、ユウさんめっちゃ声高いんよ。なので、1音キーを下げてます。」

 アンコール1曲目は、GO!GO!7188のカバーで「瑠璃色」。橋本さんはギター、福岡さんはシンセサイザーで、ドラムは打ち込み。橋本さんは、今回のツアーから導入されたのか、青っぽい色のテレキャスター・デラックスと思われるギターを使用。福岡さんのシンセサイザーの音色は、一般的なピアノの音に設定されていた。GO!GO!7188のオリジナル・バージョンは、サビでテンポで上がるが、今回のカバーは1曲を通してミドルテンポのまま、原曲の良さと雰囲気を残しつつ、メロディーとアンサンブルが際立つアレンジだった。

 アンコール2曲目、この日のライブ最後の曲は「シャングリラ」。橋本さんはギターをサンバーストのテレキャスターに持ち替え、福岡さんはこの日2回目となるベースを担当。打ち込みによる、耳慣れたバスドラのリズムが流れ、福岡さんの「やっとベース持ちました! ニューバージョンのシャングリラだからね!」、橋本さんの「今日は本当にありがとう!」という言葉に続き、福岡さんがカウント後にベースを弾き始める。音源にわりと忠実なアレンジながら、打ち込みによって、本来のバージョンには無い電子音などが足されている。バンドの代表曲であるので、さすがの盛り上がりとなって、ライブは終了。

 最後にライブ全体の感想を簡単に書かせていただきます。前述した通り、あまり演奏に関する事前情報のなかった今回のツアー初日。遠征してきたコアなファンが多かったのか、音に対するオーディエンスの集中力の高さを感じると同時に、アットホームな雰囲気にも溢れたライブでした。演奏に関しては、今までのチャットモンチーと比べると耳障りが大きく異なるので、馴染めないという意見があるのも理解できますが、僕個人としては2人の音楽に対する情熱と志の高さが感じられ、音やアレンジの節々にもさすが!と思わせる部分があり、とても感動しました。

 音楽を形作る、リズム、メロディー、ハーモニーという楽譜に記載できる情報と、音色という楽譜には書き表せない情報。曲によって、例えばギターの音が目立つ楽曲を、ギターをシンセに置き換えることで、曲の別の部分を引き立たせるなど、曲を解体し、再構築する技術とセンスには、本当にワクワクしました。一言で言うと、曲じゃなくて、演奏にフォーカスされたライブ。音楽の消費が即物的になっていく時代に、こういう行動に向かうことが、とてもチャットモンチーらしいと思います。


チャットモンチーと機械仕掛けの秘密基地ツアー2017
2017年3月9日
新潟 LOTS
セットリスト

01. レディナビゲーション
02. 隣の女
03. 恋の煙
04. バースデーケーキの上を歩いて帰った
05. ぜんぶカン
06. 余談
07. CAT WALK
08. ほとんどチョコレート
09. 変身 (GLIDER MIX)
10. 8cmのピンヒール
11. 消えない星
12. majority blues
13. Magical Fiction
14. こころとあたま~湯気
15. 満月に吠えろ
アンコール
EN1. 瑠璃色 (GO!GO!7188カバー)
EN2. シャングリラ




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