チャットモンチー「完結」によせて。

 チャットモンチーが「完結」を発表しました。発表から時間も経ち、自分の心も落ち着いてきたので、チャットモンチーのどういうところが好きなのか、チャットモンチーと出会っていかに人生が変わったか、そんな個人的な話を記述させていただきます。普段は音楽に関して、あからさまな自分語りはしないのですが、こんな機会だからいいでしょう。

 僕がチャットモンチーと出会ったのは、2008年3月31日の武道館公演。当時の僕は、レディオヘッド、ソニック・ユース、トータス、アニマル・コレクティヴなどなど、語弊を恐れずに言えば白人中産階級的な音楽が好きで、いわゆるロキノン系のバンドをバカにするような嫌なやつでした。

 チャットモンチーの武道館に行ったのも、自分でチケットを取ったのではなく、友人に誘われたからです。「チャットモンチー」という名前は雑誌などで見かけたことがあり、少しは曲を聴いたこともあったものの、「音も名前もルックスも、普通の女の子が激しいロックやってます!ってのを敢えて狙ってるようで嫌だなぁ」ぐらいに思っていました。しかし、なんとなく最近の若手ガールズ・バンドはどんなものか見てみようと思い、友人の誘いに応じたのでした。

 そして、ライブ当日。ピクシーズの「Here Comes Your Man」がBGMとして流れるなか、チャットモンチーの3人がステージではなく、アリーナ後方の通路から入場。アリーナ後方に設置されたお立ち台のようなところに立ち、ポーズを決めました。この時点での僕は「はいはい、こういう感じでかわいさ、面白さもアピールするのね」ぐらいのテンション。そして、アリーナ客席のなかの通路をとおり、チャットモンチーがステージへ。

 1曲目に演奏されたのは「ハナノユメ」。もう、この1曲目が鳴った瞬間に人生が変わりましたね。高校ぐらいから、洋楽を中心に年20~30本ぐらいライブに行き、サマソニかフジロックのどちらかは必ず行く、というような生活をしていて、それまでにもライブで衝撃を受けたことは何度もありました。でも、この日のチャットモンチーのライブは、自分のリスナー人生、音楽の聴き方を変えるぐらいの衝撃だったんです。

 まず、歌詞がはっきりと聞きとれる。そして、ギター、ベース、ドラムが、それぞれリズム楽器であり、メロディー楽器でもあると言い切れるぐらい、有機的にグルーヴ感を生み出している。歌詞からだけじゃなく、バンド全体が出す音から、心臓からドクンドクンと血がめぐる、その感じがリアルに伝わってくる。しかも、音楽が呼吸をするように3人の体からあふれ出てくるようで、全くわざとらしさ、作り物っぽさが感じられない。橋本さんの歌は、メロディアスであるのに、話し言葉の延長線上のように自然です。福岡さんと高橋さんのリズム隊は、まるで軽やかに掃除か料理でもしているみたいに、日々の暮らしの延長のような、地に足の着いた感覚がありました。

 このあとのライブは、もう本当に素晴らしい音楽に、ただただ驚くばかりの時間。当時の僕は、ロックはいろいろ聴いてきて、自分の知らない新しい音楽に出会うために、ジャズ、現代音楽、民族音楽などを掘っていた時期でした。そんな時期だったので、いわゆる一般的なロックバンドには、もうあんまり衝撃を受けることはないんだろうなぁ、と思っていました。だけど、チャットモンチーは、ちっぽけな僕の固定観念を、たった3分30秒の1曲で吹き飛ばしてくれたのです。

 クリシェのみからできあがっているかのように、わかりやすくポップでかっこいいのに、最終的に完成する音楽は、どこまでも新しい。こんな感覚は初めてでした。使うパーツが古いからといって、できあがる音楽も古いとは限らない。もうやりつくされたと思われる3ピース・バンドのフォーマットにも無限の可能性がある、まだまだ新しくかっこいい音楽を作れるということを教えてくれました。あんまり非科学的な言葉は使いたくないのですが、こういうのがバンドの魔法なんだよなぁ。

 チャットモンチーに出会ってから、それまで以上に音楽を大切に聴くようになりました。言葉のひとつひとつ、音のひとつひとつまで、全てに意味があると思って、大切に。そうすることで、自分のリスナーとしての世界は確実に広がり、チャットモンチーの楽曲もますます魅力的に響くようになりました。

 この日から現在まで、数えてみたらフェスやイベントも含めると、チャットモンチーのライブに200回以上行ってみます。別に回数を自慢したいわけではなく、チャットモンチーの魔法の秘密を知りたくて、ライブに通い続けました。僕はライブに関しては、良かったら行くし、悪かったら行かない、そうシンプルに判断することにしています。そして、2008年の3月から今まで、チャットモンチーが僕の期待を裏切ることは一度もなく、むしろ「どうしてこんなに新しく、素晴らしい音楽を作り続けられるんだろう」と思うことばかり。

 ご本人たちの言葉を借りると、高橋さん脱退後の「二匹オオカミ時代」も、4人のサポートメンバーを迎えた「大人青春時代」も、そして再び2人になった「メカニカル時代」も、常に新しく、オリジナルで、他に代用品の無い音楽を鳴らし続けてくれました。

 僕が世界で一番好きなバンド、チャットモンチー。僕がチャットモンチーを初めて観た2008年から、気づけば来年でちょうど10年目。2018年の7月まで、今度はどんな音楽を聴かせてくれるのかワクワクしながら、「笑顔でゴールテープを切る日まで」残された日々を大切に過ごしたいと思います。




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