チャットモンチー 2018年7月21日 こなそんフェス2018

チャットモンチー
2018年7月21日
アスティとくしま
「チャットモンチーのこなそんフェス2018」

 チャットモンチーの地元徳島で、7月21日と22日の2日間にわたって開催された、通称「こなそんフェス」こと「チャットモンチーの徳島こなそんそんフェス2018 〜みな、おいでなしてよ!〜」。かねてより発表されていたとおり、2日目の22日のライヴをもって、チャットモンチーは「完結」となりました。

 そのため1日目の7月21日は、本人たち曰く「プレ完結」となる公演。2daysの1日目ということで、位置付けの難しいところもあるライブですが、結論から申し上げると、とても価値のあるライブとなりました。その理由は、2011年に脱退したドラムの高橋久美子さんが、チャットモンチーのライブ中にステージに上がり、しかもドラムを叩いたため。

 多くのバンドや芸人が出演する「こなそんフェス」ですが、ここではチャットモンチーにまつわることを中心に、前半に当日のライブ・レポート、後半に僕の雑感を記述します。

12:50〜 前説

 開演予定時間は13時。10分前の12:50頃になると、この日のMCを務める小籔千豊さんとチャットモンチーの2人がステージへ。いわゆる「前説」を始めます。

 「ライブ中の撮影・録音は禁止だけど、提灯タワーや顔はめパネルなどは、どんどん撮ってSNSにアップしてね!」「会場内は飲食OKだけど、ラーメンなどの汁物だけはNG!」など、注意事項を伝えていきます。

 終始にこやかに、思いっきり楽しんでほしいことをアピールするチャットモンチーに対し、小籔さんは終始テンション低め。ご本人いわく「大好きだった幼稚園の先生が、やめてしまうような気持ちです。皆さん盛り上がってくださいよ! 僕だけ悲しんでますんで。」

13:00〜 ライヴ本編スタート

 前説に続いて、ライヴの本編がスタート。1組目は、シュノーケル。チャットモンチーのファンにはご周知のとおり、2006年から2008年まで3年連続で、チャットモンチーとBase Ball Bearと共に「若若男女サマーツアー」を開催したバンドです。

 MCでも、ボーカルの西村さんが「僕らシュノーケルの音楽人生にとって、一番楽しかった思い出が、チャットモンチーとBase Ball Bearと3組で回った若若男女サマーツアーです。その最後の開催から、ちょうど10年経ちまして、3組とも色々なことがあったんですけど、今日またこの3組が同じステージを踏める日を、チャットモンチーが用意してくれたました。ありがとう!」と発言。

※ 下の画像は、こなそんフェスの公式Twitter(@konason_staff)より
https://twitter.com/konason_staff/status/1020530701102342144

 その後、2組目の「yonige」、転換中の芸人枠で「野性爆弾とガリットチュウ福島」を挟み、15:05からはBase Ball Bear。前述のとおり、こちらも若若男女サマーツアーを共に回り、チャットモンチーとはつながりの深いバンド。

 ボーカルの小出さんはMCで「どういう気持ちで今日が来るのかなというのが、想像できてなくて、昨日までずっと”明日どんな感じなんだろう?”って、1日に何回か頭の中をよぎるんですよね。正直、泣くのかなと思ってたんですよ。そうしたら、楽屋入ってテーブルに、チャットモンチーからのメッセージがあったんですけど、そこに”Base Ball Bearへ 泣かないでね”って書いてあったの。これで泣いたら、相当みっともないなと思って(笑) 今日はチャットモンチーが地元でやるお祭りですから、皆さんと一緒に楽しんでいきたい、と思っております!」と発言。

※ 下の画像は、こなそんフェスの公式Twitter(@konason_staff)より
https://twitter.com/konason_staff/status/1020562465011068928

 Base Ball Bearの後は、南海キャンディーズ、EGO-WRAPPIN’、奥田民生、ミキと続き、ついに最後のチャットモンチーへ。13時から開演した長丁場のイベントですが、体感的にはあっという間です。

19:30〜 チャットモンチー

 2005年に、3ピース編成でデビューしたチャットモンチー。2011年にドラムの高橋さん脱退後は、時にサポートメンバーを加えながら、フレキシブルに姿を変えながら活動を続け、ラスト・ワンマンとなった先日の日本武道館公演でも、2人にPCを加えた編成、ドラムに恒岡章さんを迎えた3ピース編成、ストリングス隊との共演と、ひとつのライブの中で次々と編成を変えていました。

 では、ラスト・ライブとなる、こなそんフェスではどんな編成になるのか。僕も含め、訪れたファンにとって、気になるところでしたが、答えは出演者の中から順番にゲスト・ドラマーを加え、3ピース編成でライブをおこなうというもの。

 19:30になると、出演バンド呼び込み用のジングルが流れ、まずはチャットモンチーの2人がステージへ。場内はもちろん、この日一番の大歓声に包まれます。

福岡「みんな、ありがとう! 元気ですかぁーーー!?」
オーディエンス「イェーーーーイ!!!」
福岡「ヤバい、初めてライブで言った、”元気ですか”って(笑)」
オーディエンスの1人「おかえりー!」
橋本・福岡「ただいまー!」

福岡「まずは、せっかく帰ってきたし、ここ数年の私たちのヒット・ソングをやりたいと思います。」
橋本「(オーディエンスに向かって)徳島の人!」
(徳島出身・在住と思われるオーディエンスが手をあげる。)
橋本「……半分以下…?」
福岡「まずい(笑) チャットモンチー好きな人!」
(オーディエンス全員が挙手。)
橋本「ほな、いけるわ!」
福岡「すごい、ローカルな曲やります。」

 ステージ上にはドラムセットもセッティングされていますが、まずはサポートを入れず、橋本さんがギター、福岡さんがベースの2ピース編成で、1曲目に「きっきょん」を披露。FM徳島のジングル用に制作された曲とのことで、10秒ほどの1曲。

 「きっきょん、きっきょん、きっきょん、え、これ何きっきょん。エフエム徳島きっきょん。」という歌詞の、チャットモンチーらしい、言葉と伸びやかなメロディーが、一体化した曲でした。歌詞とメロディー共に、一度聴いたら覚えられる、思わず口ずさんでしまう親しみやすさがあり、わずか10秒の曲ですが、チャットモンチーの魅力が十分に濃縮されています。

福岡「わずか10秒のチャットモンチー最短の曲です。”きっきょん”という曲でした。数年前から、FM徳島さんで流していただいております。せっかくなので、今日は2番を作ってきました。」
橋本「そうだよ! 10秒の新曲やで。」

 2番の歌詞は「やんよん、やんよん、やんよん、え、これ何やんよん。こなそんフェス2018やんよん」。メロディーは基本的に1番と共通ですが、「こなそんフェス2018」の部分は文字数が増えている分、譜割りが早口言葉のようの細かくなっています。

橋本「やったー、大成功!」
福岡「いやぁー、これでだいぶ安心しましたね。」
橋本「めっちゃ緊張したなぁ。」
福岡「もう、こっからは行けますよ。」

ドラム 小籔千豊

 ここからは前述のとおり、1〜2曲ごとに代わる代わるゲスト・ドラマーを混じえ、3ピース編成で進行していきます。1人目のドラマーは、この日のMCも担当する小籔さん。

 福岡さんの「ここからはですね、強力な助っ人を呼びたいと思います! 本日のMC、こやびんでーす!」という呼び込みに導かれ、小籔さんがステージへ。それから、ゲスト・ドラマーに事前に聞いた、共通のアンケートの回答を紹介していきます。

好きな食べ物: ドミノ・ピザのマヨじゃが、31のハニーレモンハニー
好きな動物: 盲導犬、補助犬、警察犬
その動物になったら何をしたいですか: 人を助けたい
転職するなら何になりたいですか: 学校の先生、小説家、お坊さん、ドラマー

 福岡さんの「みなさんご存知のとおり、こやびんはチャットモンチーの大阪支部のドラマーとして、ずっと活躍してくれてました!」という紹介に続いて、「風吹けば恋」と「真夜中遊園地」の2曲を披露。

 基本的には音源に忠実なアレンジで、プロのドラマーと比べてしまえば、わずかにリズムのあまいところがありますが、かなりの完成度の高さで、こんなところからも小籔さんのチャット愛が伝わります。

 小籔さんのMC「本当にすばらしいフェスで最高なところ悪いんですけど、僕はめちゃくちゃ悲しいです。ドラムを叩きながら2人に振り返ってもらう風景も、あっこちゃんさんのかかとを見ながら叩くことも、えっちゃんさんが振り返って”イけてるよ”みたいな感じで眉毛を上げてくれるのも、もう見られへんのかなと思うと、とても悲しいです。みなさんは盛り上がってくださいね! 今日という日を忘れずに、これからもドラムを頑張っていきたいと思います。今まで本当にお疲れ様でした。」

ドラム 奥田民生

 2人目のゲスト・ドラマーは、奥田民生さん。小籔さんが使用していたドラムが移動し、次のドラム・セットがステージ上へ。すると、すでに民生さんがドラムの前に座っており、スタッフの手によって、ドラムと共に運ばれてきます。「どうも、こんばんは! 奥田民生です!」と挨拶をしますが、かなり酔っ払っている様子。小籔さんの時と同様、福岡さんがアンケートの回答を紹介。

好きな食べ物: 明太子、谷中生姜
好きな動物: ゾウ
その動物になったら何をしたいですか: 鼻で水を吸う
転職するなら何になりたいですか: お好み焼き屋

 民生さんと共に演奏されたのは「阿波の狸」と「コンビニエンスハネムーン」の2曲。「阿波の狸」は、徳島県徳島市で毎年11月に開催される「阿波の狸まつり」のシーズンになると徳島県内で流れる、祭りのCMに使われている曲のカバーとのこと。

 民生さんのドラムは、手数は多くなく、ところどころリズムにタメがあり、独特の音が遅れて出てくるような感覚がありました。

ドラム 山田雅人 (シュノーケル)

 3人目のドラマーは、シュノーケルの山田雅人さん。これまでの2名と同じく、アンケートの回答を紹介。

好きな食べ物: たい焼き
好きな動物: クジラ
その動物になったら何をしたいですか: 地球を一周したい
転職するなら何になりたいですか: たい焼き屋

 山田さんと共に演奏したのは、チャットモンチーのデビュー曲「ハナノユメ」。次々とドラマーが入れ替わると、それぞれの個性が際立つところも興味深かったのですが、山田さんのドラムは、一発ごとのヒットにキレがあり、非常にシャープな音像を作り出していました。

ドラム 堀之内大介 (Base Ball Bear)

 4人目のドラマーは、Base Ball Bearの堀之内大介さん。名前を呼び込まれる前に、スタッフに混じってドラムの移動とセッティングをしながら、ステージへ。チャットモンチーの2人が気づく前に、オーディエンスが堀之内さんに気づき、場内から笑いが漏れます。

福岡「あれっ!? ちょっと待って! なんか1人、プロレスラーみたいな人が混ざってるんだけど(笑) あんな人、チャットのチームにおったかなぁ。もう、うちらが知らんことやるのやめて(笑)」
橋本「Base Ball Bearのホリーーー!!」
(オーディエンスから大歓声)
福岡「ホリくんのアンケートは、もういいかな?笑」
堀之内「いいんじゃないかな。」
福岡「もう、だいたい言っちゃったもん。転職するとしたらプロレスラー。」
橋本「やっぱり?」
福岡「好きな食べ物はドリア。」
橋本「やっぱり!」
福岡「好きな動物は…えっちゃん、なんやと思いますか?」
橋本「ゴリラ!」
堀之内「俺の見た目で言ってるじゃない(笑)」
橋本「違う(笑) 見た目じゃなくて、なんかゴリラかなって…」
福岡「正解は犬でしたー。」
堀之内「普通でしたー。」
福岡「犬になったとしたら、何をしたいと思ってるでしょう?」
橋本「すごい大事な飼われ方して、すごい大切に育てられたい!」
福岡「正解は、猛ダッシュでした!」

 堀之内さんと共に演奏されたのは「恋の煙」。選曲は、堀之内さんのリクエストとのこと。こちらもアレンジ、音作り共に、基本的には音源に忠実。ですが、高橋久美子さんによる立体的なドラムと比較すると、堀之内さんのリズムはより前のめりで、推進力を重視したドラミング。

 また、曲後半のブレイク部分は、従来のライブではシーンと静まり返り、コントラストを演出していましたが、この日は逆に観客の歓声を呼び込むように、長めに休符をとっていました。

若若男女サマーツアー2018

 ここまで4人のドラマーを迎え、7曲を披露。残りの2曲は、若若男女サマーツアーを共にまわった3バンドによる、スペシャル・セッションとなります。

福岡「今日さ、シュノーケルとBase Ball Bear出てたやん? 私たち、昔3バンドでツアーしてたじゃない?」
橋本「えっ、てことは!?」
福岡「せっかくやから、シュノーケルとBase Ball Bear呼んでいいですか?」
(オーディエンスからは大歓声。シュノーケルとBase Ball Bearがステージへ。)
福岡「若若男女サマーツアーっていう、老若男女をもじって、若い若いで若若と書いてたんですけど、今どうですか?」
橋本「ざっと見て、どうですか?」
小出「もう完全に、おじさんとおばさんですよね(笑) いや当時はね、一番年下の関根が21才ぐらいで、俺とホリも22ぐらいでしたよ。で、チャットとシュノーケルが23、24ぐらいでしょ? それが今、関根ですら33ですから。それより上は、言うのもはばかられる(笑)って年ながら、久々に若若男女で集まろうってことですよ。」
福岡「なんか、今すごいセットが組まれてますけど、これもしかして若若男女でよくやってたやつ?」
小出「まぁ、そういうことですよね。」

(各楽器がセッティングをしている最中に一部のメンバーでMC)
福岡「こいちゃんはねぇ、すごい立派になったよ。最初の若若男女サマーツアーでは全然しゃべんなくて、ツアーの最後に一番名残惜しそうにしてたの。で、その1年後にまたツアー始まったら、またなんか久しぶりに会ったいとこみたいな感じで不機嫌になってて、でも最後一番名残惜しそうにしてるの(笑)」
小出「あの頃は、やっぱり心を開いてなかったっていうか、チャットモンチーみたいに、田舎から出てきたやつに負けてられっかっていう…」
(会場が徳島なので、チャットモンチーとオーディエンスから笑いが漏れる)
小出「ごめんごめん(笑) 田舎の皆さん、ごめんなさい! 東京都から来ましたー!」
橋本「やめて!笑」
堀之内「俺らが徳島に呼んでもらえなくなるじゃん! 誰が得するのよ!笑」
小出「すごくいい街だなと思いますよ。なに食べても美味いし、天気もいいし、みんなの人柄もいいし、人間国宝みたいなバンドを生んだ街ですよ徳島! チャットモンチーが完結したとしても、明後日からもチャットモンチーいるんだろうなと思って、みんな生きていくと思いますよ。それぐらい、音楽史に名を残してきたバンドだと思います。」
福岡「ありがとう。こいちゃんにそんな励まされると思わんかったわ。」
小出「最後だからね。」
福岡「そうだね、今日プレ完結やから。」
橋本「あのねぇ…(演奏の)準備ができたって!」
小出「えー、だから何年ぶりですか?」
西村「10年ぶり?」
小出「みんなで集まるのは10年ぶり。この曲をやるのは、12年ぶりかな? 僕らにとっての青春だと、言い切っていいですよね?」
橋本「いいよー!」
小出「青春の大事な1ページだと思います。おそらく、このメンバーで集まって演奏するのは、これが最後なんじゃないかなと思うので、最後の若若男女、目に焼きつけてほしいと思います。」

 若若男女のメンバーによって、12年ぶりに演奏されたのは「今夜はブギー・バック」。言うまでもなく、小沢健二とスチャダラパーによる曲のカバーです。1994年にリリースされ、その後も多くのバンドやミュージシャンにカバーされてきたこの曲は、若若男女世代のアンセムと言っても過言ではない1曲でしょう。

 3バンド分の厚みのあるアンサンブルに乗せて、小出さん、橋本さん、西村さんがボーカルを担当。主にラップのパートを小出さん、それ以外の歌メロを橋本さん、橋本さんを支えるコーラスを西村さんが担う構成となっていました。

 「今夜はブギー・バック」演奏後、福岡さんがオーディエンスを煽り始め、最後の曲へと誘導していきます。

福岡「まだ、みんなが物足りなそうな顔してる! みんな、あの曲、聴きたいんちゃう!?」
(オーディエンスからは大歓声)
福岡「みんなが聴きたい曲、みんなでやろうよ、せっかくやけん…。リズム、スタートーー!」
(堀之内さんと山田さんが、シャングリラのイントロのバスドラを踏み始める)
小出「あ、ちょっと待って、待って! 今日さぁ、友達つれてきてるんだけど、最後にその友達も混ぜてあげていいかな? ちょっと呼んでくるわ! 俺も久しぶりに会う友達なんだけど。」
(しばらくすると、小出さんが高橋久美子さんを連れてステージへ)
小出「友達、連れてきた!」
橋本「くみこん! クミコンじゃない! めっちゃ泣いてるやん!笑」
小出「クミコン、チャットモンチーは辞めたけど、若若男女は辞めてないもんね! チャット辞めた時にさ、ドラムセットをSMAの倉庫に置きっぱなしにしてるから、今日それを持って来たよ!」
(ステージ中央にもう1台のドラムセットが運び込まれ、高橋さんがドラムセットへ)
福岡「クミコンのドラムセットを発掘したぞー!」
橋本「めちゃくちゃ泣いてるやん、クミコン。大丈夫かな? ねぇ、すごくない? クミコン帰ってきたよ!(僕には橋本さんの声も、少し涙ぐんでいるように聞こえました)」
福岡「おかえりーーー!」
(ここまで、堀之内さんと山田さんのバスドラ、観客の手拍子がずっと続いています)
小出「ごめん、悪いんだけどさぁ、おじさんのキックうるせぇから、クミコンのキックが聞こえないので、おじさんのキックもうやめていいよ。おじさんのは、もういいから。」
福岡「おじさん(笑) 若若男女って言ってたのに(笑)」
小出「じゃあ、クミコン。あらためて、キックお願いします!」
高橋「それじゃあ、行くよーーーー!!」

 堀之内さんと山田さんがキックを止め、高橋さんがバスドラを踏み始め、あらためてシャングリラがスタート。小出さんは「本物だ、本物だ!」と叫びます。

 この日は会場が大きいため、ステージの両脇にモニターが設置されていたのですが、カメラマンもオーディエンスが何を見たいのか理解していて、この場面ではチャットモンチーの3人が画面に映し出されます。

 もう、聴くことはできないと思っていた、高橋さんのドラム。もう、見ることはできないと思っていた、3人のチャットモンチー。そんな夢のような光景が目の前に広がり、涙を流す人も数多く見受けられました。(自分もその1人ですが…)

 高橋さんのドラミングは、ブランクがあるためか、堀之内さんと山田さんと比べ、ヒットはやや弱いかなと思いましたが、立体的で歌うような、以前のタイム感とリズム感は健在。感情論や印象論ではなく、やっぱりチャットモンチーのドラムはクミコンなんだ!と思わせる演奏を見せてくれました。

 前述のとおり、高橋さんはステージに上がった時から涙でいっぱいでしたが、橋本さんも歌いながら感極まったようで、ところどころ声が震えたり、歌えなくなったり、オーディエンスに向かって「みんな一緒に歌って!」と促す場面もありました。

 ハイライトは間奏部分。橋本さんと福岡さんが、後ろを向いて、高橋さんの方に近づき、あのトライアングルが復活します。ファンにとっては奇跡の瞬間と言っても過言ではない光景。カメラも、もちろんこの3人を映し出します。

 シャングリラ演奏後、3バンドのメンバーが、ステージ前方に集まり、最後の挨拶。高橋さんがドラムセットから前方に出てくるとき、近くにいたシュノーケルのメンバーと関根さんに、なにか声をかけていました。おそらく「久しぶり、元気だった?」というような言葉をかけていたのではないかと思いますが、こんなところからも3バンドの絆が垣間見えます。

 福岡さんがオーディエンスへの感謝を口にしたあと、「Base Ball Bearーー! シュノーケルーー!! そして、チャットモンチーでしたー!」と各バンドを紹介しながら、ステージを後にしていきます。

 最後に、福岡さんが「チャットモンチーでしたー!」と言ったとき、福岡さん、橋本さん、高橋さんの3人が、肩を組むようにして一緒に歩いていて、ファンならばここも号泣ポイントでした。

※ 下の画像は、高橋久美子さんの公式Twitter(@kumikon_drum)より

 ライブのあとは、こなそんフェス恒例の阿波踊りが披露されます。阿波踊りの準備中には小籔さんのMC。「本当にええもん見れましたね。皆さん、これからつらいことがあっても、今日見たことを思い出して、頑張っていただけたらと思います。」と、またまたファンと同じ視点に立った言葉を残してくださいました。

武道館と比較しての「こなそんフェス」

 ここからは、僕がこの日のライブを見て感じたことを、記述します。

 最初に記したとおり、こなそんフェスの2日間をもって「完結」となるチャットモンチー。こなそんフェスの約2週間前の7月4日には、日本武道館にてラスト・ワンマン・ライブも開催されていました。

 武道館公演は、最新アルバムの『誕生』楽曲を中心にした前半。ドラムに恒岡章さんを加えた3ピースでの中盤。チャットモンチー史上初となる、ストリングス隊との共演を果たした後半と、これまでのチャットモンチーの歴史を踏まえた上で、この期に及んでも新しい挑戦を続ける、実にチャットモンチーらしいライブだったと言えるでしょう。

 それに対してこなそんフェスは、その名のとおり、お祭りであり、ファンへの最後の挨拶、といった意味合いのライブのように感じました。適切な表現が思い浮かびませんが、ボーナス・トラックと言うべきか、チャットモンチーからのプレゼントと言うべきか、前を向いて走り続けてきたチャットモンチーが、初めて少しだけ後ろを振り向いたライブだったと、言えるのではないでしょうか。

 武道館では、選曲においてもアレンジにおいても、果敢に新しいアプローチに挑戦したチャットモンチー。しかし、こなそんフェスでは、『誕生』からの楽曲は1曲も披露されませんでした。その代わりに、ゆかりのあるドラマーを次々に迎え、過去のチャットモンチーの様々な部分を、アップデートして見せてくれました。ただ、過去の自分たちのコピーバンドにはならないところも、このバンドのすごいところ。

 全ての曲で、そのドラマーの個性を引き出し、チャットモンチーの一部へと取り込んでいました。このチャットモンチーが拡大していく感覚は、男陣と乙女団が馴染んでいった感覚にも近かったです。また、チャットモンチーにとってゆかりのあるドラマー、最後のステージに一緒に上がりたいと思うドラマーを集めたことも、イベント全体の暖かい空気と、急造バンドとは思えない有機的なアンサンブルを作る要因になったはず。

 言い換えれば、今までは音楽至上主義を貫き、いい意味でファンや時代に媚びない姿勢で、音楽を作り続けてきたチャットモンチーが、初めて地元の人や、付き合いのあったバンドマン、ファンに向けて、開催したのがこのライブだったのではないかということ。もちろん、今までのチャットモンチーがファンをないがしろにしていた、という意味ではありませんよ。

 この日のライブのクライマックスとして、高橋久美子さんがステージに上がり、しかもドラムまで披露してくれましたが、この奇跡も、若若男女サマーツアーで苦楽を共にした、Base Ball Bearとシュノーケルが一緒だったからこそ実現したのでしょう。

 どういう経緯で、高橋さんのドラムが実現したのかは分かりませんが、当事者同士だと、お互いのリスペクトの気持ちが大きすぎて、逆に頼みにくい、受諾しにくいということもあるでしょう。そこを小出さんあたりが、うまく繋いでくれたのではないかなと、個人的には想像しています。

 小籔さんの言葉どおり、終わったあと本当に「いいものを見せてもらった」という気持ちで、いっぱいになったライブでした。最後まで挑戦を続け、未来に向かうチャットモンチーに胸を打たれた武道館と、チャットモンチーがいろいろな過去を思い出話のように聞かせてくれて、あたたかい人柄に胸を打たれたこなそん。このふたつのライブは、コインの表と裏のように、一対になったライブなのではないかと思います。

 音楽に向かう、おそろしいほどのストイックな態度と、本人たちの優しくあたたかい人柄。小出さんの言葉を借りれば、チャットモンチーは、まさに人間国宝のようなバンドです。

チャットモンチーのこなそんフェス2018
2018年7月21日
アスティとくしま
セットリスト

01. きっきょん
02. 風吹けば恋
03. 真夜中遊園地
04. 阿波の狸
05. コンビニエンスハネムーン
06. ハナノユメ
07. 恋の煙
08. 今夜はブギー・バック
09. シャングリラ




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チャットモンチー「完結」によせて。

 チャットモンチーが「完結」を発表しました。発表から時間も経ち、自分の心も落ち着いてきたので、チャットモンチーのどういうところが好きなのか、チャットモンチーと出会っていかに人生が変わったか、そんな個人的な話を記述させていただきます。普段は音楽に関して、あからさまな自分語りはしないのですが、こんな機会だからいいでしょう。

 僕がチャットモンチーと出会ったのは、2008年3月31日の武道館公演。当時の僕は、レディオヘッド、ソニック・ユース、トータス、アニマル・コレクティヴなどなど、語弊を恐れずに言えば白人中産階級的な音楽が好きで、いわゆるロキノン系のバンドをバカにするような嫌なやつでした。

 チャットモンチーの武道館に行ったのも、自分でチケットを取ったのではなく、友人に誘われたからです。「チャットモンチー」という名前は雑誌などで見かけたことがあり、少しは曲を聴いたこともあったものの、「音も名前もルックスも、普通の女の子が激しいロックやってます!ってのを敢えて狙ってるようで嫌だなぁ」ぐらいに思っていました。しかし、なんとなく最近の若手ガールズ・バンドはどんなものか見てみようと思い、友人の誘いに応じたのでした。

 そして、ライブ当日。ピクシーズの「Here Comes Your Man」がBGMとして流れるなか、チャットモンチーの3人がステージではなく、アリーナ後方の通路から入場。アリーナ後方に設置されたお立ち台のようなところに立ち、ポーズを決めました。この時点での僕は「はいはい、こういう感じでかわいさ、面白さもアピールするのね」ぐらいのテンション。そして、アリーナ客席のなかの通路をとおり、チャットモンチーがステージへ。

 1曲目に演奏されたのは「ハナノユメ」。もう、この1曲目が鳴った瞬間に人生が変わりましたね。高校ぐらいから、洋楽を中心に年20~30本ぐらいライブに行き、サマソニかフジロックのどちらかは必ず行く、というような生活をしていて、それまでにもライブで衝撃を受けたことは何度もありました。でも、この日のチャットモンチーのライブは、自分のリスナー人生、音楽の聴き方を変えるぐらいの衝撃だったんです。

 まず、歌詞がはっきりと聞きとれる。そして、ギター、ベース、ドラムが、それぞれリズム楽器であり、メロディー楽器でもあると言い切れるぐらい、有機的にグルーヴ感を生み出している。歌詞からだけじゃなく、バンド全体が出す音から、心臓からドクンドクンと血がめぐる、その感じがリアルに伝わってくる。しかも、音楽が呼吸をするように3人の体からあふれ出てくるようで、全くわざとらしさ、作り物っぽさが感じられない。橋本さんの歌は、メロディアスであるのに、話し言葉の延長線上のように自然です。福岡さんと高橋さんのリズム隊は、まるで軽やかに掃除か料理でもしているみたいに、日々の暮らしの延長のような、地に足の着いた感覚がありました。

 このあとのライブは、もう本当に素晴らしい音楽に、ただただ驚くばかりの時間。当時の僕は、ロックはいろいろ聴いてきて、自分の知らない新しい音楽に出会うために、ジャズ、現代音楽、民族音楽などを掘っていた時期でした。そんな時期だったので、いわゆる一般的なロックバンドには、もうあんまり衝撃を受けることはないんだろうなぁ、と思っていました。だけど、チャットモンチーは、ちっぽけな僕の固定観念を、たった3分30秒の1曲で吹き飛ばしてくれたのです。

 クリシェのみからできあがっているかのように、わかりやすくポップでかっこいいのに、最終的に完成する音楽は、どこまでも新しい。こんな感覚は初めてでした。使うパーツが古いからといって、できあがる音楽も古いとは限らない。もうやりつくされたと思われる3ピース・バンドのフォーマットにも無限の可能性がある、まだまだ新しくかっこいい音楽を作れるということを教えてくれました。あんまり非科学的な言葉は使いたくないのですが、こういうのがバンドの魔法なんだよなぁ。

 チャットモンチーに出会ってから、それまで以上に音楽を大切に聴くようになりました。言葉のひとつひとつ、音のひとつひとつまで、全てに意味があると思って、大切に。そうすることで、自分のリスナーとしての世界は確実に広がり、チャットモンチーの楽曲もますます魅力的に響くようになりました。

 この日から現在まで、数えてみたらフェスやイベントも含めると、チャットモンチーのライブに200回以上行ってみます。別に回数を自慢したいわけではなく、チャットモンチーの魔法の秘密を知りたくて、ライブに通い続けました。僕はライブに関しては、良かったら行くし、悪かったら行かない、そうシンプルに判断することにしています。そして、2008年の3月から今まで、チャットモンチーが僕の期待を裏切ることは一度もなく、むしろ「どうしてこんなに新しく、素晴らしい音楽を作り続けられるんだろう」と思うことばかり。

 ご本人たちの言葉を借りると、高橋さん脱退後の「二匹オオカミ時代」も、4人のサポートメンバーを迎えた「大人青春時代」も、そして再び2人になった「メカニカル時代」も、常に新しく、オリジナルで、他に代用品の無い音楽を鳴らし続けてくれました。

 僕が世界で一番好きなバンド、チャットモンチー。僕がチャットモンチーを初めて観た2008年から、気づけば来年でちょうど10年目。2018年の7月まで、今度はどんな音楽を聴かせてくれるのかワクワクしながら、「笑顔でゴールテープを切る日まで」残された日々を大切に過ごしたいと思います。




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「majority blues」楽曲レビュー

 「majority blues」は、2016年11月30日に発売されたチャットモンチー18枚目のシングルの表題曲。CDでの発売に先駆けて、2016年7月20日より配信でも販売された。作詞・作曲は橋本絵莉子。

 チャットモンチーの魅力はいろいろありますが、僕が好きなところのひとつは、歌詞においても、アンサンブルにおいても、サウンドにおいても、引き算の表現ができるところです。語り過ぎないことで、行間に意味が生まれ、音を詰め込みすぎないことで、休符にも意味が生まれる、そんな感覚。また、感情をそのまま削りとったような生々しい歌詞というのも、多くの人がチャットモンチーの魅力として挙げるところだろうと思います。この「majority blues」も、サウンドも言葉もシンプルでありながら、様々な情景や感情がリアリティをともなって浮かぶ、チャットモンチーらしさに溢れた楽曲です。

対を意識させる歌詞

 イントロのギターの音は、一聴すると非常にシンプル。ですが、わずかに揺らいでいるような、紙に水がにじんで広がっていくような、妙に耳に残る味わい深いサウンドです。このあとに入ってくるドラムのリズムも、ゆったりとしていて隙間が多いのですが、スカスカには感じず、むしろ広々とした開放感を感じます。このアレンジとサウンド・プロダクションのおかげで、ボーカルが前景化され、歌詞の言葉がすっと耳に届きます。

 歌い出しは「マママママジョリティー」と聞こえますが、歌詞カードを確認すると「my majority」。そのあと「majority minority」と続きます。多数派を意味するマジョリティと、少数派を意味するマイノリティ。この組み合わせのように「majority blues」の歌詞には、対になる表現がいくつも出てきます。例えば、1番のAメロの「自転車で30分」と「帰り道は40分」、2番のAメロの「東京は思ったより近かった」と「徳島は思ったより遠かった」などが、それにあたります。では、この対になる表現がどういった効果をあげているのか、歌詞はなにを意味するのか、これから僕の解釈をご説明します。

 チャットモンチーの福岡さんと橋本さんは、ともに徳島県出身。ファンの方なら、この曲は橋本さんが徳島時代を思い返している曲だと、すぐに思い当たるはずです。もちろん、そういった側面もあるとは思いますが、ひとまず伝記的な事実に引っ張られ過ぎないよう、歌詞の言葉から伝わるものだけを手掛かりに、歌詞を読んでみましょう。

 まず、歌い出しは先ほども引用したように「my majority」。この部分だけでは何とも判断できませんが、「私の内部の多数派」あるいは「私のまわりの人たちのうちの多数派」といった意味でしょうか。その後に続く「majority minority」。名詞を並べただけですが、この並列も様々に解釈できそうです。

帰り道の時間が10分伸びたのはなぜか?

 Aメロの次のように始まります。

自転車で30分 薄暗い道 ライブハウスは思ったより狭かった
帰り道は40分 ヘッドライトの中 初めての耳鳴りが不安だった

 1行目はライブハウスへ向かう道、2行目はライブハウスからの帰り道を描写しています。行きは30分だったのに、帰りは40分になったのはなぜでしょうか。僕は、初めてライブハウスに行った興奮から、また耳鳴りが治らない不安から、帰りは自転車を降りて歩くなど、心を沈めるためにゆっくり帰ったのではないかと思います。もちろん、はっきりとは記述されていないので、夜道は暗くてスピードを出すのが危ないから10分長くかかった、という可能性もあります。いずれにしても、説明的ではないのに、そのときのイメージが喚起される表現です。

 また、行きは「薄暗い道」、それに対して帰りは「ヘッドライトの中」と対にしたのも絶妙ですね。単純に対応する言葉を選ぶなら「真っ暗な道」と書いてしまいそうだけど、「ヘッドライトの中」と書くことで、車のヘッドライトに照らされて、車道の端を自転車で走っていく様子が目に浮かびます。

現在から過去を語る「私」

 続いて、Bメロ。「帰りが遅くなって 夢を見るようになった」というのは、ライブハウスに初めて足を踏み入れた語り手の「私」が、その日から音楽に目覚め、自分もステージに立つ側になりたい、という夢を持ち始めたということでしょう。そして3行目に「16歳の私へ」とあります。ここで、「私」が現在の視点から、16歳当時のことを振り返っていることが示されます。

 音楽面にも少し触れておくと、サビの「my majority」という歌詞の部分は、イントロ部分とメロディーの動きは同じですが、ちょうど1音分キーを上げるように転調しています。例えば、イントロでは最初のコード進行がE→B→Aだったのが、サビではF#→C#→Bとなっています。メロディーも、ここまでは音の起伏が激しくありませんでしたが、サビでは上下が大きくなり、転調とも相まって、曲の高揚感と緊張感が増します。そんなサビ部分の歌詞を、下記に引用します。

my majority みんなと同じものが欲しい だけど
majority minority みんなと違うものも欲しい

 イントロ部の歌い出しと共通する「my majority」という言葉が、サビのこの部分に至って、より具体的な意味を帯び始めます。「私」の中のマジョリティはみんなと同じもの、すなわち友人と遊んだりといった日常的な楽しみが欲しい、しかし「私」の中のマイノリティはみんなと違うものが欲しい。すなわち他の人には作れない音楽を作りステージに立ちたい、そのような思いが想像できます。もちろん、作詞家の意図はそうではないかもしれませんし、人によっては全く別のメッセージを読み取るということもあろうかと思います。ここで主張したいのは、僕の解釈が正解ということではなく、イントロ部分で歌われた歌詞よりも、Aメロを経て、同じ言葉でも伝わる情報の量が増えている、ということです。

東京と徳島の距離

 続いて、2番のAメロの歌詞。1番では16歳当時のことが歌われましたが、2番では22歳当時のことが歌われ、語り手の「私」が故郷の徳島から、上京したことが明らかになります。

飛行機で70分 空の旅
東京は思ったより近かった
右も左もわからない 前しか見えない
徳島は思ったより遠かった

 1番でも「自転車で30分」「帰り道は40分」と、時間の長さをあらわす表現が使われていましたが、ここでも「飛行機で70分」という表現が繰り返されます。70分というのは、1番の歌詞に出てきた「30分」と「40分」、つまり家からライブハウスまでの往復時間と、ちょうど同じ長さです。具体的な時間を入れることで、その後に続く「東京は思ったより近かった」という歌詞も、よりリアリティを持って響きます。

 「東京は思ったより近かった」と対になる表現が、その2行後に続く「徳島は思ったより遠かった」という一節です。当然のことながら、徳島と東京の距離は、物理的には変わりません。ここで「私」が言っているのは、歌詞に「思ったより近かった」「思ったより遠かった」と示されているように、物理的な距離ではなく、精神的な距離感です。

 徳島に住んでいる時に、夢が叶う場所として夢想していた東京は、飛行機に乗ればあっけないほどに近かった。しかし、実際に東京で夢をかなえるべく日々を過ごしていると、徳島の日々が遥か遠くに思われる。このように、地名としての「徳島」と「東京」、そして自分が生まれ育った場所、夢が叶う場所という、自分の感情も含まれた意味での「徳島」と「東京」、このふたつの異なる意味が絡み合い、リスナーの様々な感情を喚起させるのが、この部分の歌詞です。

伝記的事実とのリンク

 先ほど、伝記的な事実に引っ張られ過ぎないよう、歌詞の言葉から伝わるものを読み取る、と書きましたが、ここで少しだけチャットモンチーの伝記的事実と重なる部分をご紹介します。2番のBメロには、以下の歌詞が続きます。

始まりの鐘が鳴り
さよならの味を知る
22歳の私へ

 チャットモンチーが上京し、メジャーデビューしたのは2005年11月23日。橋本さんと福岡さんは22歳、高橋さんは23歳のときです。そして、デビューミニアルバム『chatmonchy has come』の1曲目に収録されているのは「ハナノユメ」。その「ハナノユメ」を思わせるギターのフレーズとドラムのリズムが、「始まりの鐘が鳴り」の歌詞の前、1:52あたりから挿入されています。この話は、2016年11月23日におこなわれた「チャットモンチーの鋼鉄婚式~鋼の11年~」の夜の部において、ご本人たちの口から紹介されました。

過去の自分との対話

 16歳と22歳という具体的な年齢が示され、語り手の「私」が現在の視点、少なくとも22歳以降の時点から過去を振り返っていることがわかります。また、歌詞のなかでは、それぞれサビ前に「16歳の私へ」「22歳の私へ」というかたちで出てくることから、「私」が過去の自分自身へ話しかけているような印象を与えます。そして、2回目のサビでは、このように歌われます。

my majority
あなたを作るの私じゃない だけど
majority minority
あなたを守る人は私

 ここに出てくる「あなた」と「私」は、ともに語り手の「私」を指しているのではないでしょうか。少なくとも、僕はそう解釈します。「あなた」は過去の語り手であり、「私」は現在の語り手。「あなたを作るの私じゃない」というのは、過去を変えることはできない、そして「あなたを守る人は私」というのは、過去の自分の判断・価値観を、今の自分は肯定し、愛おしく思っている。そんな意味なのではないかと、僕は考えます。

過去、現在、そして未来へ

 さらに歌詞は次のように続き、結ばれます。

まだ見ぬ私へ
あなたを作るの私だけ
majority minority
あなたを守る人は私

 ここまでは現在から過去を振り返っていましたが、歌詞の最後の部分に至って、視点が現在から未来へと向かいます。「まだ見ぬ私へ」というのは、未来の「私」ということでしょう。そして、その後に続く「あなたを作るの私だけ」という部分の「あなた」は未来の私、「私」は現在の私であり、未来の自分を作れるのは自分だけ、と歌っています。つまり、「あなた」=「私」です。この部分からも「majority blues」が、自分自身との対話をテーマにした曲であることが示唆されます。繰り返し出てくる対になる表現も、時間の経過を印象づけ、自分自身と向き合うことも含意しているように思われます。

 ある時期以降の橋本さんの詞には、自分という他者との対話や発見を思わせるものが多いと考えているのですが、それはまた別の機会、別の歌詞を取り上げたときにじっくりと掘り下げたいと思います。

majority bluesのブルース性

 歌詞を最初から順に読み解いてきましたが、最後にタイトルについて。この曲のタイトル「majority blues」。ブルースというのは、もちろんアメリカで生まれた音楽形式の名称です。音楽形式としてのブルースの特徴として主に挙げられるのは、12小節を基本としたブルース形式と呼ばれる構成、3、5、7度の音が下がったブルー・ノートと呼ばれる音の使用、そして、日常的な感情、特に憂鬱や悲しみを歌う、といったところでしょう。

 上記にあげたような条件を満たさず、厳密な意味では形式としてのブルースではないのに、「○○ブルース」というタイトルを持つ曲は古今東西に数多くあります。そういった曲は、ブルースのエッセンスや思想を含んでいるために、またはブルースのように歌詞で悲しみや憂鬱について歌っているために、名づけられたものがほとんどです。では、「majority blues」においては、どのようなブルース性が認められるでしょうか。

 まずサウンド・プロダクション。先ほども触れたように、ギターの音はわずかに歪み、わずかに揺れるような音色です。橋本さんのギターといえば、「恋の煙」や「湯気」で聴かれるような鋭い歪み、「親知らず」や「満月に吠えろ」で聴かれるような粘りとコシのある歪みなど、普段はよりロック・オリエンテッドな音作りです。しかし「majority blues」では、味わい深い、枯れたような、ブルージーと呼んでいいサウンドを響かせています。

 ギター以外のドラムとベースも、エフェクトは控えめにシンプルな音作りと言ってよいでしょう。さらに、シンセサイザーで出しているのか、鉄琴とギターのハーモニクスを足したような音も聞こえます。この音色も、楽曲に独特の浮遊感と、ノスタルジックな空気をプラスしています。

 チャットモンチーの曲は、歌詞がメロディーに乗っても、言葉ひとつひとつがはっきりと聞き取れるところが魅力です。それだけ、言葉とメロディーが自然に、分割できないほどに溶け合っているということ。起伏の激しいメロディー、言い換えれば歌らしいメロディーなのに、まるで話し言葉のように、自然に聞こえます。「majority blues」のメロディーは、これまでの曲と比べると起伏が少なく、最初から話し言葉に近い印象を受けます。

 自分の感情を静かに、しかしその奥には熱い情熱を持って語る歌詞と、話し言葉の延長のように流れるメロディー。言葉、メロディー、サウンドが一体となっていて、まるでチャットモンチーという生き物が呼吸をしているように感じられます。個人的な感情を、なるべくシンプルな少ない言葉と音をもって描き出すこの曲は、チャットモンチー流の現代的な女性のブルースであると思います。




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「DEMO、恋はサーカス」楽曲レビュー

 「DEMO、恋はサーカス」は、2005年11月23日発売のミニアルバム『chatmonchy has come』に収録の楽曲。デビュー前の自主制作盤『チャットモンチーになりたい』にも収録されていた。作詞は橋本絵莉子・福岡晃子、作曲は橋本絵莉子。

 「中二病」という言葉が存在するように、青春というのは一種の病のようなところがあって、そのときにしか感じ得ない感情、そのときにしか見えない情景があります。この「DEMO、恋はサーカス」という曲にも、思春期のある時期のある感情が、言葉と音に閉じ込められていて、リスナーの年齢と精神状態によって、共感したり、心がヒリヒリしたり、昔を思い出しノスタルジックな気分になったりすることでしょう。こういうところが、自作自演のロックバンドの魅力のひとつです。そして、一部の雑誌やネット上のロックに関する言説に、自分語りが圧倒的に多いことの理由でもあるでしょう。

歌詞の描く状況

 曲はシンプルで飾り気のないサウンド・プロダクション、音数の少ないアンサンブルで始まり、サビに向かって段階的に演奏が荒々しさを増し、熱を帯びていきます。非常に切迫感のあるアレンジとサウンド、そして歌い方です。激しい演奏とも相まって、歌詞からも、焦燥感や切迫感が伝わります。では、具体的に歌詞が伝える状況、感情はどのようなものでしょうか。

 歌詞に登場するのは、語り手と「あなた」の2人。語り手は、「私」などの一人称代名詞は使いません。一人称代名詞を使用しないことで、より歌詞の独白感、心の叫び感が強まっています。冒頭の歌詞は以下のように始まります。

綱渡りじゃないんだから あなたの手なしでも歩いてゆく
目かくしじゃないんだから あなたの目なしでも歩いてゆく

 「綱渡り」「目かくし」というサーカスを連想させる言葉が使われ、語り手は「あなた」がいなくても歩いていく、と言います。この表現は、語り手がどういう気持ちで「歩いてゆく」と宣言しているのか、はっきりとはわからない曖昧さを残しています。「あなた」のことは好きでもないから必要ないと言いたいのか、「あなた」のことを好きだったけど気持ちの整理がついたからもう大丈夫と言いたいのか。そのような、自分でも把握できない揺れる感情を抱えたまま、曲は続きます。

青い夜空と澄んだ瞳と その笑顔に癒されていたのに
遠くにいても近くにいても その姿に癒されていたのに

なんでわざわざ今?

 次の引用部では、今までは「あなた」の存在に癒されていたけど、今はその関係が変わってしまったことが示唆されています。「なんでわざわざ今?」という一節は、サビ前、サビ後にも何度か繰り返されますが、今なにが起こったのかは明らかにされません。そして、サビでは以下のように歌われます。

あなたではないよ 他のだれかだよ
子どもの頃のように優しくしてほしい
あなたではないよ 他のだれかだよ
自惚れないでよ 落ち込まないでよ

 語り手は、ここで「あなたではない」と言い切っていますが、同時に「優しくしてほしい」とも言っています。「子どもの頃のように優しくしてほしい」とあるので、語り手と「あなた」は幼なじみで、「あなた」は語り手に好きだと伝えたけど、語り手はその気持ちを受け入れることができない、だから子どもの頃の関係性に戻りたい、という状況が想像できます。

 タイトルの「DEMO」という標記は、なにを含意しているのでしょうか。意味としては、接続詞の「でも」として受けとってよさそうです。「DEMO」と表記することで、デモテープ(デモ音源)が連想されます。

 デモテープというと、バンドなどが製作中の楽曲を、ライブハウスや友人などの他者に、聴いて評価してもらうために作成する音源を指します。いわば、まだ完成される前の段階=デモ段階のものです。「DEMO、恋はサーカス」というタイトルが示唆するのは、語り手と「あなた」の関係は、まだなにも始まっていないデモ段階の恋だということ。子供のころから仲良く遊んできた幼なじみの2人が、思春期になり、関係性が揺らぎ始めている、そういう状態を歌っていると、ひとつの可能性としては読み取れます。

 はっきりとは書かれていませんが、「あなた」は語り手のことが好きで、しかし語り手は幼なじみの友人としか思えない、でも、恋はサーカスのように不安定だから、語り手の気持ちも揺れている、そのような感情、状況がヒリヒリと伝わってきます。サビの歌詞の「あなたではないよ 他のだれかだよ」という部分からは、語り手に好きな人がいるわけではないけど「あなた」だけは無理とも受け取れるし、親しい関係性だからこそぶっきらぼうに扱っているとも感じられます。

 いろいろと書いてきましたが、僕の解釈が正解!と主張したいわけではなく、作者の意図が正解というわけでもないので、皆さんもご自身の心が赴くままに感じとってください。僕自身もこうして文章を書きながら、「やっぱり語り手もあなたのことが気になってるけど、まだ好きかわからない状態」「一度振ったくせに今更そっちから好きっていうなんてありえない!」という状況など、いろいろな考えが浮かんできます。

ドラムによるリズムの切り替え

 次にこの曲の音楽面について。前述したとおり、この曲はシンプルなサウンドと、ゆったりしたテンポから始まりますが、何度か段階的に音量とテンポが上がっていきます。特にドラムが、その切り替えのスイッチの役目を果たしていて、聴きどころのひとつです。

 イントロから、ギターとベース共に、音色はナチュラル、アレンジはシンプルです。ドラムも一聴すると音はシンプルで、リズムも叩き方もぶっきらぼうとも言えるあっさりとした印象。しかし、何回か聴いていると、前のめりに行きたいのか、少し遅らせてタメを作りたいのか、その中間のような絶妙なグルーヴ感が感じられます。

 0:45あたりからのハイハットのリズムの置き方も、じっくり聴くと少し複雑で、独特のノリを生んでいます。イントロからここまでは、8分音符より細かいリズムは出てきませんが、ここからハイハットが16分音符を使い始めて、曲の雰囲気がぐっと引き締まり、加速感も出てきます。

 1:12あたりで、テンポを上げるところも、スネアとタムを同時に叩くことが合図となり、バンド全体が一気に走り出します。

 1:48あたり、歌詞でいうと「青い夜空」からの後ろで叩かれるライド・シンバルも、ヒット毎に叩く強さと場所を変えているのか、それぞれ音質が異なります。高橋さんはライブでも叩く強さと位置を繊細に変えて、立体的な音を作り出すドラマーで、作詞家としてのみならず、ドラマーとしても天才だと思います。楽器が表現力あふれる演奏をすることを「歌っているようだ」と形容することがあります。バンドの中では、メロディーから最も遠い存在といえるドラムという楽器なのに、高橋さんのドラミングは歌っているようなドラミングなんですよね。

歌詞と音楽の親和性

 この曲はドラム以外のギターとベースも、クリーントーンのアルペジオから轟音のディストーション・サウンドへ、同音が続く8ビートから動きの多いラインへと、それぞれメリハリのついた演奏を繰り広げ、基本的には後半に向かうにつれて、音量が増していきます。歌詞には繰り返しの表現も多いのに、アレンジによって、歌詞がより鮮やかに聞こえます。前述したとおり「なんでわざわざ今?」という一節が何度か出てくるのですが、出てくる文脈が違うということ以上に、それぞれ違って聞こえてくるんですよね。

 音と言葉が合わさったときに、音単体、言葉単体よりも多くの情報が伝わる、少なくとも伝わるように感じることがあります。チャットモンチーは、歌詞と音楽の親和性、一体感が非常に高く、その情報量の多さ、表現の強度に、僕なんかいつも圧倒されてしまいます。音楽に圧倒されるという経験は他にも数多くありましたが、言葉と音が同時に耳と心を突き刺すような感覚は、チャットモンチーならではです、僕にとっては。

 あと、もうひとつ言っておきたいのは、他人の体験や感情を追体験できるということです。この「DEMO、恋はサーカス」という曲も、僕は幼なじみと恋に落ちた経験はないですが、単なる共感とも違う「あ、そういう感情ってあるんですね」と、むしろ自分の知らない感情を教えてくれるところがあります。僕は男ですけど、チャットモンチーを聴いて少しは女心がわかるようになったのではないかと思ったり(笑) あと、Aメロ→Bメロ→サビのような展開が、1回しかない(1番、2番のように繰り返さない)のが、4分間のポップ・ソングにしては、特殊といえば特殊。

 話が逸れてきましたが、チャットモンチーの楽曲は、本当に丁寧に作られたすばらしいものばかりです。ぜひ皆さんにも、じっくりと大切に聴いていただきたいと思います。




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「テルマエ・ロマン」楽曲レビュー

 「テルマエ・ロマン」は、2012年2月8日に発売されたチャットモンチー12枚目のシングル。5thアルバム『変身』にも収録されている。作詞・作曲は橋本絵莉子。テレビアニメ『テルマエ・ロマエ』の主題歌。

 この曲は高橋さん脱退後の2ピース時代、ご本人たちの言葉を借りると「二匹オオカミ時代」の楽曲で、ライブでも橋本さんのギターと、福岡さんのドラムとシンセのみなのですが、ベースの不在を感じさせない、2人の音楽への情熱がほとばしる曲です。ちなみに福岡さんは、当時のライブではこの曲に限らず、ドラムを叩きながら片手でシンセを弾く、ということをやっています。

生々しいサウンドプロダクション

 冒頭から、チャットモンチーのライブ会場に迷い込んだような、臨場感あふれる音で始まり、楽器の数は少ないながら、それぞれ音量が大きめで、ダイナミズムを感じる1曲です。まず、イントロのバスドラの音が、残響音まで閉じこめるように生々しい音で鳴っています。ベースの代わりに入れていると思われるシンセも、中音域を埋めるようにアナログ的なサウンドで響きます。そして、橋本さんのボーカル。こちらは風呂場を意識しているのか、若干のリバーブがかけられています。

 僕はこの曲のサウンドプロダクションが非常に好きで、初めて音源を聴いたときには「スティーヴ・アルビニ先生が録音したみたいだ!」と思いました。飾り気が無く、実際に風呂場で演奏しているみたいに、その場の空気感まで伝わる音作り。2000年代中盤以降は、いわゆるドンシャリな音、ドラムならアタックの強い打ち込み的な音が、いい音とされる傾向にあると個人的に感じています。携帯音楽プレーヤーやストリーミングサービスが、ますます一般化しているのも関係しているのだと思いますが、プアな視聴環境でもパワフルに感じる音がよしとされるのだろうなと。そういう音も嫌いではないですが、常にそれしか聴いていないと、化学調味料たっぷりのカップラーメンのようで飽きてしまうんですよね。たまには、素材から拘りぬいた、こんな音が聴きたくなります。

 話が逸れました。サウンドの話に戻りますと、イントロのバスドラは直接のアタック音よりも、キックをしたときの音の弾む感じまで聞こえるような音作りで、「そうそう、バスドラ踏んだときってこういう音するよな」という臨場感に溢れています。前述したとおり、橋本さんのボーカルには歌い出しから軽くリバーブがかかっているのですが、0:14あたり、歌詞でいうと「水圧に負けるようでは」の部分から、早くもリバーブが消えて、ストレートに声が聞こえるようになります。こういうところからも、サウンドに対するこだわりが感じられますよね。

ダイナミズムを感じるアレンジ

 この曲は2人で演奏されているためベース不在ですが、それを感じさせないほど、荒々しくパワフルな演奏です。2人だけでも最大限に強弱とメリハリをつけて、ダイナミズムを感じられるようアレンジも作り込まれています。いや、作り込んでいると表現すると、すべて楽譜に書いたとおりに演奏するという印象を与えるかもしれませんが、かっちりとリズムを合わせるところと、多少のリズムの走りは気にせず突っ走るところが、しっかり切り替えられていてメリハリがある、ということです。

 ドラムに注目して聴いていくと、0:14あたり「シャワーの水圧」の歌詞の前に入るシンバルが、スタートを告げる合図のように響き、ここから演奏のシフトが切り替わり、曲が加速していきます。前述したとおり、同じ部分で橋本さんのボーカルにかかるリバーブも解除されます。

 0:27あたり「偶然できた」からは、複数のタムを加えて、ドラムが立体的になります。0:40あたり「リンス先輩」からは、基本リズムは変わらず、叩くタムを増やしているだけなのに、全くイメージが違って聞こえてきます。

 次にサビの部分。0:55の「いつもより」からのドラムは、打ち付けるように跳ねるようなリズムを叩いているのですが、これが1:07あたりからは手数を減らして、シンバルで4分音符を叩きます。このリズムの切り替えが、落ち着きと解決感を与えていて、こういう自由な発想がなんともチャットモンチーらしいなと。コード進行で解決感を出すというのは当たり前ですが、僕は才能が無いのでリズムでこういうメリハリをつけるようなことは思いつかない。

 当時の福岡さんは、ドラムを始めたばかりで、テクニック的には未熟な部分もあったと思うのですが、このようなアレンジを聴くと、やっぱり才能溢れるミュージシャンなのだなと実感します。

歌詞の二面性

 まず一聴して感じるのは、これは風呂の歌なのかなんなのかということです(笑) ただ単に、1日の終わりにお風呂に入っている歌なのかと思いきや、それだけには収まらないイメージをかきたてる言葉が歌詞の随所に散りばめられているし、なにより橋本さんのボーカルが何に対する怒りなのかっていうぐらい、キレッキレでエモーショナルです。

 2番のAメロの歌詞に「ここは一日の最後の場所」と出てくるように、お風呂は多くの人にとって、寝る前のリラックスタイムにあたる場所のはずです。では、この曲はお風呂でリラックスしている牧歌的な歌なのかといえば全くそんなことはなく、語り手には1日で溜まった悩みや疲れやストレスやイライラを発散するような、切迫感があります。例えばサビの「お疲れ様は疲れてるんだ」、そして最後の「ヒントはどこに浮かんでるんだ?」という歌詞からも、語り手の精神状態がうかがい知れます。

 歌詞でもうひとつ触れておきたいのは、2:40あたりから始まるカウントダウンで、どの数字のときの声が好きか、という問題です。個人的には「7」が一番好き。地声と裏声を混ぜて発声することをミックスボイスと呼びますけれども、この「7」は橋本さんのかわいい声とかっこいい声のちょうど中間ぐらいのミックス具合なんですよね。そもそも、このカウントダウンも、子供が親に促されてお風呂場で数を数えることに由来しているのだと思いますが、普通は「いーち、にーい、さーん…」と1から数えていくはずなのに、10からのカウントダウンって! なにか発射か爆発でもするんですか!?って感じですね(笑) こういうセンスも本当に天才的で、橋本さんならではです。

コミカルなシリアス・ソング

 アニメの主題歌ということで、歌詞の綴り方も「泡てた」「汗る」など、本来だったら「慌てた」「焦る」と書くべきところを、風呂を連想させる言葉に置き換えて、コミカルな印象を与えています。しかし、語り手は「いつもより ゆっくりお風呂に入」りたい、そして「隠しても無駄なものが この世には多すぎる」と思わず吐き出したい気分のようです。歌詞は一見するとコミカルなお風呂の歌なのに、ただの楽しい歌で終わらず、リアルでダウナーな感情もしっかり閉じ込められているところが、実にチャットモンチーらしいと思います。

 サウンドプロダクションにおいても、歌詞においても、やっぱり彼女たちは基本的な姿勢がオルタナティヴなんですよね。それは、サウンドや歌詞の傾向が、いわゆるジャンルとしてのオルタナティヴ・ロックに近いということではなくて、常に選択肢の「じゃない方」「違う方」を勇気と好奇心を持って選び続けるということです。もう、チャットモンチーのこういうところが本当に好き。




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「8cmのピンヒール」楽曲レビュー

 「8cmのピンヒール」は、3rdアルバム『告白』に収録されている楽曲。作詞は高橋久美子、作曲は橋本絵莉子。

 ドラマーとしても大好きだし、作詞家としても優れた詞を書き続けている、クミコンこと高橋久美子さん。この「8cmのピンヒール」も、説明的な歌詞ではないのに、状況や心情が浮かび上がってきて、不思議な魅力にあふれています。

「8cmのピンヒールで駆ける恋」が描き出す心象風景

 タイトルにもなっている「8cmのピンヒール」という言葉は、サビ前の歌詞にも「8cmのピンヒールで駆ける恋」と出てきます。なにも説明していないのに、この一節から、語り手の状況や心情など、驚くほど多くの情報が鮮やかに伝わってきます。

 まず、8cmのピンヒールを履いているということで、語り手はおそらく女性。そして、そんな高いピンヒールを履いて駆けるというのは、不安定だし、転んだらケガをしてしまうし、背伸びをしているとも言えるし、そもそもそんな高いヒールじゃ走れないし、と次々とイメージが浮かんできます。一切の状況説明なく、歌詞の語り手の状況と心情が明らかになります。実際にピンヒールを履いているのかもしれませんが、「8cmのピンヒールで駆ける恋」というのは比喩表現で、例えば使い古された表現で「綱渡りのような恋」と言えば似たような状況を描き出せるかもしれませんが、情報量は劣ってしまうでしょう。

「8cmのピンヒールで駆ける恋」とはどんな恋か?

 歌詞に出てくるのは、語り手の「私」と、「あなた」の2人。前述したように語り手の「私」は、現状を「8cmのピンヒールで駆ける恋」と表現しています。1番のAメロの歌詞からも察するに、「私」は8cmのピンヒールを履いて走っていくような、不安定で危なっかしい、悩み多き恋をしているようです。さらに、本来「私」は8cmのピンヒールを履くようなキャラクターではないこと、少し背伸びして無理をしていることも、示唆されます。2番のAメロ、そしてサビで、以下のように歌われます。

歩幅を合わせて歩いた
転ぶとわかっていたけど

ねぇ私のこと全部わかるって言ったけど
あなた何も見えてなかった

 2つ目の引用部分は、この恋が終わりかけているのか、危機的状況なのか、そんな印象も伴っています。そこをはっきりとは書かない、ヒリヒリとモヤモヤが同居する何ともいえない心情が、伝わってきます。僕自身は男なので、「女心はわからない、こわい!」「どうしてはっきり言ってくれないの?」なんてことも思ってしまいますが、恋愛の疑似体験ともいうべき、いろいろな複雑な感情を教えてくれるのも、チャットモンチーの好きなところです。

歌詞の比喩表現

 この曲の歌詞には、他にも個性的で奥行きのある比喩表現がいくつかあります。Aメロの「化石になった脳みそが 私のからだを支配して」というのは、どんなふうに悩んでいるのかニュアンスが伝わるし、サビの「私たちの闇を照らすため 真っ黒の画用紙に空けた穴」というのも、2人の関係がうまくいっていないのを真っ黒の画用紙による暗闇に例え、沈黙と気まずい空気を破るために月を見て「綺麗だね」って言ったのかなとか、非常にイマジネーションをかきたてられる表現です。そして、繰り返しになりますが、こういう表現が活きてくるのも、「8cmのピンヒールで駆ける恋」という一節で、状況を鮮やかに描き出しているおかげなんですよね。

 この、わずかな言葉にたいしての情報量の多さ。ご本人はものすごく努力し、時には苦しみながら歌詞を生み出しているのだろうし、「天才」という言葉を安売りしたくはないのですが、こんな歌詞を書けるのが作詞家・高橋久美子の天才たる所以です。

有機的アンサンブル

 続いて、音楽の話へ。この曲の聴いていて気持ちいいところは、機械式時計のようにギター、ベース、ドラムがかっちりと合ったアンサンブルを構成しているところですね。チクタクチクタクと動き出しそうなぐらい、3つの楽器が有機的に絡み合って、曲を盛り上げていきます。あと、音のストップ&ゴーがはっきりしていて、ルーズなところとカチっと合わせるところが決まっていて、とてもメリハリが感じられます。

 イントロから、もうめちゃくちゃかっこいいんですが(笑)、ドラムはバスドラをいわゆる四つ打ちで踏み続けながら、スネアとシンバルで8分音符と16分音符を織り交ぜたリズムを刻んでいきます。ベースは最初の4小節はシンプルに8分音符、ギターは歪みながらも独特の浮遊感のある音で、コードを弾いていきます。曲のイントロ部分が、まずフルスロットルで始まります。

 Aメロに入ると、バスドラは変わらず四つ打ち、ギターとベースはミュートで8分音符を刻みます。イントロと比べると、一気にシフトを下げたように落ち着くのですが、ここからスネアを絶妙なタイミングで入れてくるので、独特のタメが生まれて、リズムが伸び縮みするように感じるんです。

 音源の位置でいうと、0:25あたりからは2小節ごとに小節の後半部分に、それぞれ違ったリズムでスネアを叩いています。これがベースとギターのぴったり合った8分音符とはズレるので、耳に残るんですよね。0:40あたりからは、2拍目と4拍目にスネアを入れて、さらに8分音符でシンバルも加わるのですが、手数も増え、今度はギターとベースと縦のリズムが合うので、雰囲気がガラっと変わります。

歌詞と演奏の一体感

 あと、触れておきたいところと言えば、2:09あたりから、歌詞でいうと「歩幅を合わせて歩いた」からの部分ですね。ボーカル以外の楽器が、音を止めるところがあって、つっかえながら、転びそうになりながら、歩いているようなアレンジです。履きなれない8cmのピンヒールで走るような恋をしている「私」の状態を、音そのものでもあらわしているようです。

 ここまで挙げてきたところ以外にも、ギターとベースがミュートから、ミュートを解除する部分など、不安定な溢れ出す感情がサウンドからも伝わります。歌詞とアレンジおよびサウンドとの親和性の高さも、チャットモンチーの魅力のひとつです。

 自分でもコントロールできない、どうしようもない感情を抱えたまま、8cmのピンヒールで駆けていく「私」。その「私」の眠れない夜や、溢れ出す感情、転びそうになりながらも、難しい恋に向き合う様子が、言葉でも音でも表現されています。言葉だけではなく、サウンドだけでもない。その両方を持ち合わせた「8cmのピンヒール」のような曲を聴くと、ポップ・ミュージックの強さと魅力を感じます。




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「Make Up! Make Up!」楽曲レビュー

 「Make Up! Make Up!」は、2ndアルバム『生命力』に収録されている楽曲。作詞は福岡晃子、作曲は橋本絵莉子。

 チャットモンチーの楽曲は、どれも一筋縄では行かないところが魅力です。この曲も、歌詞はライトなことを歌っているようで、人間の普遍的な悩みを感じさせるし、アレンジはアレンジでわかりやすい縦ノリのロックのような佇まいをしながら、聴けば聴くほどに奥の深さが感じられます。それでは、これから僕なりのこの曲の解釈、好きなところをご紹介したいと思います。

メイクをする理由はなにか?

 まず、この曲の語り手の「私」はどうやら女性で、「Make Up! Make Up!」というタイトルのとおり、毎日メイクをする、ということを歌っています。では、メイクをする理由はなんでしょうか。Aメロではこのように歌われています。

見てはいけないものを見てしまうたび
どんどん 私 強くなった
言ってはいけないことを言ってしまうたび
どんどん 私 ブスになった

 このように語り手の「私」の視点から、一人称で彼女自身の変化が語られ、サビの「だから make up! everyday」へと繋がっていきます。つまり、Aメロの歌詞の内容が、サビでメイクをする理由になっています。この構造は2番になっても共通していて、いろいろなことを経験して「ブスになった」り、「バカになった」語り手が、それを隠すためにメイクをします。

メイクはなにを意味するのか?

 では、メイクをするという行為は、なにを意味するのでしょうか。この曲は一聴すると、メイクをし始めたばかりの10代の女子が、鏡に映った自分の顔を見て、メイク前の顔とメイク後の顔が全然違う!と歌っているようにも聞こえます。しかし、歌詞から伝わるのは、それだけではありません。

 前述したように語り手の「私」は、Aメロで見てはいけないものを見て強くなった、言ってはいけないことを言ってブスになったと語り、サビの「だから make up! everyday」へと繋がっていきます。これは、年齢を重ねて社会の様々なルールを知るなかで、社会と折り合いをつけるために自分自身を偽ることも同時に知っていく、というふうにも読めます。さらにサビの歌詞は次のように続きます。

だけど
make up! everyday make up! every time
眉のアーチをキメた
鏡の中の女は誰?

 語り手の「私」は、「鏡の中の女は誰?」と問いかけています。これは、本当の自分と、他人に見せる自分が、乖離してきているということです。年齢を重ねていき、人間関係のなかで自分自身を偽ることに慣れ、本当の自分と他人に対して演じる自分が、別人になっていく。今なら中二病的と呼ばれるのかもしれませんが、10代の若者が経験するそうした心情を、歌っているのではないかと思います。だから、この曲は10代の女子だけでなく、僕のような男にも響くんじゃないかな。少なくとも僕は、この曲を聴いてだいぶ救われました。

歌詞の多面性、多層性

 チャットモンチーの歌詞の魅力は、さりげない日常の題材を用いながら、感情の深いところを突いてくるところです。だから、彼女たちの歌詞を単純に「明るい」「暗い」と言った一義的な言葉で説明するのはなかなか難しい。この「Make Up! Make Up!」も、メイクをしたら自分でもわからないぐらい顔が別人になった、ということをコミカルに歌いながら、同時に人間の普遍的な孤独や悩みを、その下に忍ばせています。

 そういう視点を意識したうえで、「誰も自分のことをわかってくれねぇー!」という気持ちを歌っているのだと思って、この曲をもう一度聴いてみてください。耳をつんざくような橋本さんの高音で「だから、メェーイクアップ! エブリデイ~!」と歌われたら、そのエモさにきっとノックアウトされますよ。ちなみに、私立恵比寿中学の「大人はわかってくれない」という曲も、より大人と子供の対立に焦点をあててはいますが、共通するテーマを持った曲だと思います。

 もうひとつ、この曲で僕がドキっとする一節があります。それは最後の「赤のルージュをひいて 愛しい人にくちづけを」という部分です。これは、恋人に会うときですら、ある程度の嘘や秘密を抱えているということなのか。いや、人間ならどんなに親しい人に対しても、そういう嘘や秘密があってしかるべきだとは思うのですが、それを曲の最後に示唆的に持ってくるところ、等身大のかわいい女子の歌と油断させておいてリアリズムを感じさせるところが、チャットモンチーの魅力のひとつですね。

レイヤー構造のアレンジ

 次に、この曲のアレンジについて。ドラムのタム回しから始まり、その後は8分音符を基本にしたリズムで、曲が加速していきます。歪んだギターと締まったベースの音。一聴すると、いかにもノリやすい、わかりやすいロック然としたサウンドとアレンジです。そのため、「ライブで盛り上がるノリのいい曲」ということで片付けられてしまいそうですが、聴けば聴くほどに、音楽の奥深さ、音楽を聴く楽しさが詰まった曲です。

 前述したとおり、16分音符のドラムのタム回しから始まり、その後は8分音符を基本単位としたリズムになります。ベースは、イントロ部分から8ビートかくあるべし!といった感じで、安定してリズムをキープしていきます。ドラムも、アクセントの位置は変えつつ、8分音符を基本に、曲に推進力とメリハリをつけていきます。そして、このリズム隊の上にギターが乗るのが、この曲の基本構造です。

 歌が入るまでのイントロ部分で、ベースは常にE(ハ長調でいえばミ)の音を弾き続けています。そして、(ドラムのタム回しを除くと) 5小節目から入ってくるギターは、E→B→Aとコードを弾いていきます。上に乗るコードは進行していくのに、その下を支えるベース音は変わらない。この持続していくベース音は、ペダル・ポイントと呼ばれ、バロック時代から使われる通奏低音です。で、このペダル・ポイントを用いたアレンジで、曲が進行していくのですが、これが独特の一体感と分離感を生むんですよね。

 リズムの面でも、ベースは曲中のほぼ全てで、8分音符を刻み続けるのですが、その上に乗るギターは、休符やタイを含んでいて、かなり自由な印象を与えます。同時に、ギターが隙間を音で埋めつくさないことで、弾いてない部分、音楽の隙間の部分が、より際立って感じられます。1番のAメロ部分は、ほとんどギターが入っていないのにスカスカには感じないし、逆に2番のAメロではギターのカッティングが入ってきて、ものすごく音が増えたように感じます。3ピースバンドなのに、このようなメリハリと情報量を音楽に与えられるのも、チャットマジックのひとつですね。

 音程の面でもリズムの面でも、安定したベースの上にギターが乗るという構造になっていて、まるでバンドがひとつの生き物のように有機的に感じられます。時にはぴったりと一緒に加速して、時には羽を広げるように離れていくアレンジが、単調になりそうな8ビートの楽曲を、色鮮やかにしています。後述しますが、さらにドラムもこれに絡んできます。本当に、たった3人で、こんなシンプルな音符ばかり使って、どうしてこんなことができるんだろう、チャットモンチーは。

 パイプオルガンやピアノではペダルを踏んで音を持続させるため、ペダル・ポイントは別名オルガン・ポイントとも呼ばれます。もともとはひとつの楽器でおこなわれる演奏を、ギターとベースで分け合っているのが、また示唆的ですね。

ドラムのアクセントの位置

 前述のとおり、この曲はドラムのタム回しから始まり、その後はドラムも8分音符を基本としてリズムを刻んでいきます。1小節のなかに8個の音があって、イントロではアクセントの位置が、3個目と7個目の音についています。と、言葉で説明するとわかりにくいかもしれませんが、イントロでスネアを弱く叩くところと、強く叩くところがあるのは、音源を聴けばわかると思います。

 『生命力』のForever Editionに収録されているライブ音源を聴くとより分かりやすいのですが、このイントロのスネアの強く叩くところが、ほんのわずか遅れて感じる、テンポが速めの曲なのに、糸を引いているようなタメが感じられます。同時期の曲だと「世界が終わる夜に」や「橙」などの、テンポがゆったりした曲の方がわかりやすいのですが、この2曲も十分にリズムにタメがあって、グルーヴ感がすごいんですよね。

 「Make Up! Make Up!」のイントロでは、スネアにアクセントをつけることで独特のタメを作っていますが、これがAメロになると、イントロに比べるとあっさりと叩いています。そして、サビになるとシンバルを多用することで一気に解放感が生まれる。前述したギターとベースの関係性に加え、ドラムがアクセントを自在に変えることで、曲のダイナミズムが増しています。

奥深いチャットモンチーの世界

 この曲は、テンポの速さとノリのいいリズムに、耳がいってしまいがちだけれど、やっぱりチャットモンチーはアンサンブルとグルーヴ感を追求しているバンドです。ライブで盛り上がりそうなノリのいい8ビートの曲、と見なされることが多いかもしれません。確かにそのような受け取り方、楽しみ方もできるのですが、それだけではない、というのがチャットモンチーの好きなところです。

 8分音符を基調にした3ピースバンドの曲で、ここまで分離感と一体感を同時に持った曲を僕は知らないし、ペダル・ポイントや分数コードをここまで効果的に納得のいくかたちで使っている曲も、思い当たりません。

 実は何人かの方達が「Make Up! Make Up!」をレビューしているのを見かけたのですが、皆さんこの曲の評価が高くなかったのです。その方達の評価を否定するつもりは全くありませんが、僕はチャットモンチーのここが好きですよ、まだまだチャットモンチーの魅力ってこんなにありますよ、ということを伝えたくて、自分の知性と情熱の全てをかけて書きました。

 ファンの方ならご存知の通り、チャットモンチーが2018年7月での「完結」を発表しました。その後のお二人の活動がどうなるのか現時点では全くわかりませんが、今からでも、チャットモンチーの魅力を多くの人に伝えたい、という気持ちでこれを書いています。これからも時間が許す限り書こうと思っています。

 単純な4つ打ちバンドでもなければ、自己満のストーリーを垂れ流すバンドじゃないんだよ、チャットモンチーは!




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チャットモンチー 2017年8月6日 ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2017

チャットモンチー
2017年8月6日
ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2017
(国営ひたち海浜公園)

 チャットモンチー2年ぶりのROCK IN JAPAN FESTIVAL。PARK STAGEのトップバッター、10:30からの出演です。

 9:30頃にPARK STAGEに着くと、すでに見慣れたスタッフの面々が機材の調整をしています。PCとシンセサイザーを全面的に導入した「メカットモンチー」体制でまわった「チャットモンチーと機械仕掛けの秘密基地ツアー2017」(以下「秘密基地ツアー」)同様、ステージ上には、向かい合うように2台のシンセサイザーが設置されています。

 そして、しばらくするとチャットモンチーの2人もステージへ。橋本さんは今年の夏フェスグッズの「はっとしてハット」のブルーを着用。ちなみに秘密基地ツアーのファイナル六本木公演のアンコールでは、福岡さんがブルー、橋本さんがオレンジを着用し、「夏フェス用のグッズです」と紹介していました。

 さて、サウンドチェックでは、各楽器の音をチャットモンチー自らも加わり調整していき、秘密基地ツアーで1曲目に披露された「レディナビゲーション」を断片的に演奏しながら、最終確認をおこなっていきます。

 メカットモンチー体制での「レディナビゲーション」は、アルバム『YOU MORE』収録の音源とは音作りが大幅に異なり、打ち込みのドラムトラックの上に、チャットモンチーの2人がシンセサイザーを重ねています。シンセの音色もフワァーっとしたシンセサイザー然とした柔らかい音が選択されています。主に橋本さんが旋律的なパート、福岡さんが伴奏的なコード弾きを担当しているようです。

 この日のサウンドチェックでは、まずドラムトラックを流し始め、それに合わせて2人が何気ない感じでシンセを弾いていくのですが、程よくラフで、グルーヴ感もあり、2人のミュージシャンとしてのスキルの高さが垣間見えます。

 舞台監督のハギさんが「レディナビやります」と指示を出して、今度は橋本さんのボーカルも入って、1回目のサビ終わりぐらいまでを演奏。あくまでサウンドチェックなので、歌っていないフレーズもところどころありましたが、ほぼツアーで演奏されていたのと同じアレンジです。

 最後にマイクチェック。福岡さんはマイクチェックっぽく「ハー、ハー、ハー、へェ〜エ。この曲(レディナビゲーション)やらないから、安心してね!」、橋本さんは「あー、あー、あー、おはよう! おはよう!! 10:30からだよ。」と言って、マイクチェックも終了。2人がステージ奥へ戻ります。

 10:30が近づくと、前説のためにROCKIN’ON JAPAN編集長の小栁大輔さんがステージへ。今年は見やすさを考慮しながら各ステージの規模を拡大したこと、地震が起きた場合の注意事項などを説明した後に「2年ぶりにROCK IN JAPANに帰ってきてくれました! 毎回、違う試みで、その日だけのマジカルな時間を作ってくれる2人です。チャットモンチー!」という呼び込みから、入場用のSEが流れます。

 入場用SEは、橋本さんが作成したという秘密基地ツアーでも使用されたオリジナルのSEです。そして、いよいよチャットモンチーがステージへ。前述した通りステージ上には向かい合うように2台のシンセサイザーが設置されていて、オーディエンス側から見て、右側のシンセサイザーに橋本さん、左側に福岡さんが座ります。

 1曲目は「恋の煙」。この曲もアルバム『耳鳴り』収録の音源とは耳障りがだいぶ異なり、元々は鋭く歪んだギターが弾くイントロは、シンセサイザーに置き換えられています。しかし、イントロからしばらくすると手拍子が起こり、オーディエンスの反応は悪くありません。

 「恋の煙」の後には、橋本さんが「皆さん、おはようございます、チャットモンチーです!」、福岡さんが「いっぱい集まってくれてありがとう! チャットモンチーは変身ばっかりしてきましたけど、まずはメカットモンチーから始めたいと思います。」と挨拶。2人が喋っている間から、SEが流れ始め、そのまま自然な流れで2曲目の「変身」へ。

 メカットモンチー体制では、アルバム『変身』収録のオリジナルバージョンではなく、group_inouによるGLIDER MIXをもとにしたアレンジで演奏しています。この曲では、橋本さんはエレキギター(黒のシンライン)を担当。

 「変身」が終わると、ほとんど切れ目なく打ち込みのリズムが流れ始め、3曲目「M4EVER」へ。この曲が秘密基地ツアーで演奏された際には、このリズムトラックをバックに、メンバーとオーディエンスが、コール・アンド・レスポンスをしてから曲に入っていましたが、なんとこの日はラジオ体操!

橋本「みんな、朝やけど起きてますか?」
(オーディエンスから「イェー!」の声)
福岡「寝たまま、立ってたら凄いけどな(笑)」
橋本「確かに(笑) ちょっとだけラジオ体操する?」
(オーディエンスからは、また「イェー!」の声)
橋本「よかった、じゃあ真似して。」
(チャットモンチーの2人が、無言でラジオ体操第一の「体を横に曲げる運動」を左右に何回か繰り返し、オーディエンスもそれを真似する)
福岡「無言かよ(笑) ラジオ体操の先生の気持ち分かりました。めっちゃ気持ちいい!」
橋本「めっちゃ綺麗やで! これでみんな起きたと思います、ありがとう。」
福岡「今からやる曲は、オケをパソコン君に任せて、2人でラップやります!」

 この流れで、3曲目「M4EVER」へ。福岡さんも説明していましたが、この曲はチャットモンチーのアルバムなどには収録されておらず、スチャダラパーのアルバム『1212』と『6ピース バリューパック』のみに収録。橋本さんがお母さん役で、スチャダラパーのメンバーが息子たちという設定の曲ですが、メカットモンチーでは福岡さんがスチャダラパーのパートのラップを担当しています。

 前述の通り、リズムトラックをパソコンで流しつつ、2人で交互にラップしていくのですが、ラップを担当しない間のメンバーは、コルグ製の小さなシンセ(microKORGらしきもの)を手に持って、ベースラインを弾きます。2人で、シンセとマイクを交換しながらの演奏です。

 「M4EVER」後にはMC。小さめの音ですが、GRASS STAGEで演奏中のWANIMAが聞こえてきます。

福岡「いいんですか、(同時間に演奏している)WANIMA行かなくて?」
(オーディエンスから笑い)
福岡「私はめっちゃ見たいですけどね。あんまり聞こえへんな。」
橋本「遠いからな。」
福岡「そうやな。ちょっとだけチャット見てから行こうと思っても、無理ある距離ですよね。(チャットモンチーを見る)決断してくれてありがとう!」
(オーディエンスから拍手)
橋本「あ、(裏でやってるバンドに)夜の本気ダンスもおったな。」
福岡「夜の本気ダンスのギターの人が、チャットを好きらしいって四星球の康雄から聞いたんですけど(笑) でも、えっちゃん夜の本気ダンスってバンド名が覚えられんくて、踊る……なんとかの人って(笑)」

 4曲目は「コンビニエンスハネムーン」。福岡さんがアコースティック・ギター、橋本さんがシェイカー、タンバリン、ハーモニカを担当するアコースティックなアレンジ。ここまでの4曲だけでも、2人の音楽性の幅広さ、引き出しの多さが感じられるセットリストとなっています。

 橋本さんの「じゃあ、徳島のことを歌った曲やります。」という紹介から、5曲目に披露されたのは「majority blues」。橋本さんはエレキギター、福岡さんはドラムを担当し、ベースとキーボードは打ち込んだものを同期しているようです。「majority blues」後にもMC。

福岡「ROCK IN JAPANにいつも呼んでいただいて、ここのステージは初めてなんですけど、見た目がいいですね。こっちから見た時の。木が多くて、森感あるし、ええなぁ。チャットモンチーからは特に宣伝とかは無いんですけど(笑)、4月に新曲を出してて、その曲のPVがめっちゃ面白いという話だけさせていただきます。えっちゃんが大好きなお笑い芸人さんに出ていただいてるんですけど、曲が全く頭に入ってこないと有名なPVになってしまいました(笑)」
橋本「うん。おすすめだよ。」

 6曲目は「Magical Fiction」。福岡さんの説明のとおり、PVにはテツandトモのお二人が出演し、踊りまくっています。この曲では、橋本さんがシンセサイザー、福岡さんがドラムを担当。ベースなどは打ち込みを使用。

 7曲目は「風吹けば恋」。2人の担当楽器は、橋本さんがエレキギター、福岡さんがドラムで、ベースなどは打ち込み。打ち込みを使用してはいるものの、メカットモンチー要素は薄く、音源に近いパワフルなアレンジです。チャットモンチーらしい尖った部分もあり、『変身』期の2人体制を思い起こさせます。こういった大規模のフェスということもあり、チャットモンチーをあまり見たこともない方もいるでしょうし、やはり一般的にチャットの代表曲と言っていいこの曲は、大いに盛り上がりました。

 ラスト8曲目は、福岡さんの「やっぱ最後はこの曲だよね。」という言葉から「シャングリラ」。橋本さんはギターを黒のシンラインから、サンバーストのテレキャスターに持ち替え、福岡さんはこの日初めてベースを担当。ドラムは打ち込み。基本的には音源に近いアレンジですが、打ち込みによる電子音が足されていて、マッシヴ感とメカット感の同居した音に仕上がっています。

 「風吹けば恋」に続き、知っている人が多いであろう「シャングリラ」。イントロ部分からオーディエンから手拍子がおこり、きっちりと満足感を残し、ライブは終了となりました。わずか8曲、時間にして40分ほどの中に、ここまで変幻自在に音色を詰め込みながら、すべてがチャットモンチーらしいグルーヴにまとまっていて、秘密基地ツアーを凝縮したような素晴らしいライブでした。

 1、2曲目でのメカットモンチー顔見せ。3、4曲目でのチャットのパブリックイメージには無いラップとアコースティックの提示。5、6曲目での現2人体制でのバンドサウンド。7、8曲目での代表曲の再構築、と本当に無駄がなく、情報量の多いライブだと思います。わずか40分足らずで、手際よく次々と新しいチャットモンチーを見せていく展開に、チャットモンチーのライブバンドとしての強さと、さらなる成熟を感じますね。


ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2017 (国営ひたち海浜公園)
2017年8月6日
セットリスト

01. 恋の煙
02. 変身 (GLIDER MIX)
03. M4EVER
04. コンビニエンスハネムーン
05. majority blues
06. Magical Fiction
07. 風吹けば恋
08. シャングリラ




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チャットモンチー 2017年6月29日 帯広MEGA STONE

チャットモンチー
2017年6月29日
帯広 MEGA STONE (メガストーン)
「チャットモンチーと機械仕掛けの秘密基地ツアー2017」

 本来は、4月28日に開催予定だった今ツアーの帯広公演。橋本絵莉子さんの体調不良により延期となっていましたが、2ヶ月後の6月29日に実施の運びとなりました。まずは、橋本さんの体調と声が無事に回復したようで、本当に良かった。以下、ライブレポートです。


 定刻を数分過ぎたところで客電が落ち、SEが流れ始める。電子音が飛び交う中を、ベースが休符を含んだフレーズでリズムを刻み、どことなくジャングルの中を連想させるようなSE。最後には、某PCの起動音がサンプリングされている。

 オーディエンスからの歓声と手拍子の中、ステージ上にチャットモンチーの2人が登場。ギターでもベースでもドラムでもなく、2人とも向かい合うように設置されたローランド製のシンセサイザー(色が白なのでJUNO-DS61のWhiteだろうか)の前へ着席。オーディエンス側から見て、左側に福岡さん、右側に橋本さん。

 1曲目は「レディナビゲーション」。打ち込み特有の均一な音質のドラムから音楽がスタートする。2人もそれぞれシンセサイザーで、旋律的なフレーズと、伴奏的なコードを弾き始める。今までのチャットモンチーの音楽から比べると、異質と言える柔らかなシンセサイザー特有の音質だ。間奏では、橋本さんが思わず満面の笑顔で「ありがとう!」と言う場面もあった。

橋本「こんばんは、チャットモンチーです。約2ヶ月お待たせしました。来てくれてありがとう! この前の東京でも喉やっちゃったんですけど、治ってますんで安心してください!」
福岡「めっちゃあったかい。2ヶ月分の笑顔が見えます。今日はそんな皆さんの笑顔にも関わらず、1曲目からポカーンとさせてしまいましたけど(笑)、今回はメカットモンチーという体制で今までの曲をリアレンジしてやっていきますんで、ついてきてください!」

 2曲目「隣の女」、3曲目「恋の煙」でも、2人ともシンセサイザーを弾き続け、オリジナルバージョンから大胆にアレンジされた演奏を披露していく。「恋の煙」が終わると、打ち込みされたトロピカルなリズムパターンのドラムが流れ始め、そのリズムをバックに福岡さんが話し始める。

福岡「今から、いつもは今日誕生日の人?って聞くんですけど…今日誕生日の人? おらん? あ、おった! おめでとう! 2ヶ月前の公演のとき、誕生日だったっていう人? おらん!? その時、誕生日だったって人がいたら、おもろいかなと思ったんですけど。じゃあ、もう今日はみんな誕生日! 私も4月に1個、年とったんですよ。私、ウォーキングデッドがすごい好きなんですけど、その時は盛岡でウォーキングデッドのテーマ曲で誕生日を祝われるっていう。あとで調べてみてください、めっちゃ暗い曲なんで(笑) 今日は明るく皆さんをお祝いしたいと思います! 今日、誕生日の人は最もめでたい、めでたニストなので、サビのとこでその人に向かって拍手をしてください。」

 演奏されたのは「バースデーケーキの上を歩いて帰った」。アルバム「YOU MORE」に収録されている音源では、イントロはギターとベースから始まるが、今回は2台のシンセサイザーに置き換えられている。2人がシンセサイザーでイントロを弾き始めるのだが、設定が切り替わってしまっていたのか、どちらかのシンセの音程がオクターブ高く、明らかにここまでのツアーの演奏とは違う音。そのまま進めようとするが、やはり数小節を弾いてから、橋本さんがメロディーっぽく「もう1回やっていい?」と言って、リスタート。オーディエンスは大歓声。打ち込みのリズムが流れ続けているので、ライブの流れが途切れることはなく、むしろここからシフトが一段上がったような印象だった。

 橋本さんがシンセで電話の呼び出し音を鳴らし、福岡さんがそれを取る、という流れから、曲フリ用のMCが始まる。

福岡「もしもーし、イタ電かな? ちゃんとナンバーディスプレイに番号見せてください! 非通知はあきませんよ。」
橋本「…もしもし。」
福岡「あ、えっちゃんか。なんで携帯じゃなくて、家電(いえでん)にかけてくるんよ!?」
橋本「…家電の方が好きだから!」
福岡「ちゃんと理由あるんやな(笑)」
橋本「もしもし、今なにしてる?」
福岡「帯広で、300人ぐらいと豚丼食ってるよ。」
橋本「私は今、幸福駅ってところにいるんやけど。」
福岡「なんで、そんなとこにおるん?」
橋本「…幸福に、なれるから。そういうスポットだって聞いたから。すごいスポットなの。記念撮影すると幸福になれるんだって。」
福岡「どうだった? 幸福になった?」
橋本「………うん。」
福岡「めっちゃタメあったけど、ほんまかな(笑)?」
橋本「幸福になってる。もう写真撮ったから、あっこちゃんのとこ、行っていいかな?」
福岡「いいけど、えっちゃん豚丼食べれる?」
橋本「あの…ご飯だけでいいから。下のタレのついたご飯だけでいい。」
福岡「じゃあ食べにきい。」
橋本「じゃあ、あれで行くわ。広尾線で行くわ。」
(シンセから電車が走る音を流し、橋本さんが福岡さんの隣に移動)
橋本「広尾線ってもう無いんよ。」
福岡「えっちゃん、よく知ってるなぁ、帯広のこと。」
橋本「うん、20分前ぐらいに調べた。幸福駅、行ったことある人?」
(オーディエンスから、そこそこ手が上がる)
橋本「広尾線、乗ったことある人?」
(少ないが、手が上がる)
福岡「けっこう少ないんやね。」
橋本「1987年に廃止になったらしいですね。87年って、うちら4才やからな。」
福岡「えっちゃん、教科書みたいやな(笑)」

橋本「じゃあ、あっこちゃんのとこに来たっていうことで、今からやる曲は、徳島マラソンっていう地元徳島のマラソンがあって、それのテーマソングです。この曲を作った年に、あっこちゃんマラソンを完走しました!」
福岡「めっちゃ遅いけど、頑張って完走しました。絶対みんな完走できるから、ゆっくりだったら。あの「パーーンッ!」って鳴ったら、テンション高くなっちゃって、普段の倍ぐらいの速さで走っちゃう人が多いんよ。」
橋本「おるなぁ…私やわ。」
福岡「そういう人たちが20キロぐらいで小鹿みたいになってて、そういう人たちを尻目に、めっちゃ遅い私が抜いていくっていう(笑) 徳島マラソンをきっかけにマラソンを始めて、徳島マラソンのテーマソングを勝手に書いて、送りつけて、採用されたんです。」
橋本「地元の徳島だったら何でもできるんですよ。」
福岡「スーパーで私たちの声、流れてますからね。”今日はえっちゃん、ゾロ目市やなぁ””火曜日はポイント10倍やなぁ”とか(笑)」
橋本「そんなバンドマンいませんよ(笑) 地元でむちゃくちゃやるっていう。」
福岡「地元でフェスやった時にね、そのスーパーで宣伝してくれるって言ってくれて、スーパーの人は”期間中、店内でチャットモンチーの曲を流しましょうか?”って言ってくれたのに、私たちは”せっかくだから肉コーナーとかで叫んでるやつやりたい”って言って、今でも流れてるんで良かったら聞きに来てください!」
橋本「徳島のキョーエイってスーパーなんですけど。」
福岡「話、長くなってもうたな。」
橋本「じゃあ、今から”とまらん”って曲をやるんですが、あっこちゃんが鍵盤弾きながら、バスドラ踏みます。それで私がドラムの上物をやるっていうスタイルです。」
福岡「やってて楽しいって理由で、このスタイルになってます(笑) 覗いてみてくださいね、後ろの人。」
(最前列から3列目ぐらいまでのオーディエンスが、後ろの人が見えやすいようにかがむ)
福岡「バスドラに合わせて手拍子をしてもらえると、ものすごい助かります!」

 上記の長めのMCの後に演奏された5曲目「とまらん」。1曲目から4曲目までは、ドラムは打ち込んだものを流しながら、それに同期するように2人がシンセサイザーを演奏していた。また、音色も、シンセサイザー然とした電子音だと一聴してわかるものだったが、「とまらん」では前述のとおりドラムは生演奏、福岡さんが弾く音色もアコーディオンのような味わいのある音を選択している。そのため、オーディエンスの手拍子も相まって、4曲目までと比べると、かなり耳障りの異なる演奏となっていた。演奏後には、また長めのMC。

福岡「ありがとう、止まらんかった。」
橋本「良かった。」
福岡「豚丼食べたし、えっちゃん家、行こうかな。」
橋本「どうやって行く?」
福岡「北海道やけん、これで行こう。」
(シンセから馬の走る音を流し、今度は橋本さんが元々いた位置に2人が移動)
福岡「帯広、空港着いて、この市内までめっちゃまっすぐでしたね。ビックリした! でも、すごいひとつ気になったのが、白線の上にある矢印、途中から白線じゃないとこ指してたんですけど。なんでなん、あれ?」
橋本「あの、雪で下が見えんくなった時に…」
福岡「うん、そうやと思ってたんやけど、最初白線の上を指してて、途中から段になってる方を指してて、気づいた人おる? 今度、帯広空港から市内来るとき、見てみてくださいね。」
橋本「そういう間違い探しするのが、あっこちゃんらしい。あっこちゃん、間違い探すの、すごい上手なんだよ! 凄いんだよ! CD作って、歌詞の間違いとか、いろいろチェックせなあかんけど、めっちゃ見つけるの、あっこちゃん! ほんと、あっこちゃんおらんかったら、めっちゃ間違ってると思う。私も見てるんやけどね。」
福岡「えっちゃん、気持ちは見てるけどな、たぶん目は見てない(笑)」

 5曲目「いたちごっこ」、6曲目「染まるよ」の2曲は、打ち込みは使わず、アコースティックなアレンジで披露。「いたちごっこ」では、橋本さんがアコースティックギター、福岡さんがベース、「染まるよ」では橋本さんが変わらずアコースティックギター、福岡さんはステージ左側に戻りシンセサイザーを担当。「染まるよ」でのシンセサイザーの音色は、エレピや電子オルガンに近い音色で、アコースティックな雰囲気を増している。

 7曲目は「変身」。橋本さんはシンラインを持ち、福岡さんはドラムセットへ。福岡さんが「それでは、ここからはメカットモンチーの盛り上がるバージョン、よろしくお願いします。」と言って演奏がスタート。オーディエンスもおおいに盛り上がる。ここから、9曲目「消えない星」、10曲目「majority blues」と、橋本さんがギター、福岡さんがドラム、それにプラスして必要に応じた打ち込み音源という体制が続く。11曲目には、橋本さんが今回のツアーから導入されたと思われる青っぽいテレキャスターデラックスに持ち替え、Perfumeの「TOKYO GIRL」のカバーを演奏。

福岡「今のはねぇ、PerfumeのTOKYO GIRLっていう曲をカバーしました。6月3日にPerfumeのフェスに出させてもらった時に、これカバーしたんですよ。Perfumeのフェスの次の日も仙台でやったんですよ、好評だったみたいだからっていって…でもすぐに飽きちゃって、また別の曲にしちゃって、飽き性やからね。でも、しばらく経ったから、北海道の人このフェス来てない人多いかなと思って、またやりました。」
橋本「もう私たちの飽き性は、皆さんに伝わってますよね。このツアーも3月から始まって、本来ならば今日はここにいなかったはずなんですけれども、いちゃってるわけですけれども、そしてみんなも来てくれたわけですが、もう4ヶ月、カバーをいろいろしてきて、わりとコロコロ変えてきたね。」
福岡「チャゲアスがめっちゃ好きで、ラジオでレギュラー番組やってるときに、ルーツをかけるコーナーがあったんですけど、チャゲアスだけは今はあかんって言われてしまって…」
橋本「時期が時期だけにな…」
福岡「それがたまってたんでしょうね。自分のライブだったらいいやろうってことで、チャゲアスの曲をやったり。それを急に思い立っちゃって、その場で練習してやるっていう暴挙に出たりとか。さっきの”とまらん”も、急にやったからね。」
橋本「急にやった! 急にやり始めたから、ああいうスタイルになったんですよ。急にやんないとできないからね。考えすぎたらできへんってこともあるやん。」
福岡「4月のツアーの時は、ちょっと説明した方がいいんちゃうかってことで、システムがどうなってるのかっていうのを、説明してたんですよ。それも途中で飽きちゃって、やめたんですよ(笑) でも、4月来る予定だったから、説明聞きたいですか?」
(オーディエンスから複数の「聞きたーい!」の声)
福岡「じゃあ、えっちゃんから…」
橋本「おぉ!…すんげえ、ぼーっとしてたわ。あのね、パソコンが今2台あるんですよ。主に私たちが出してる以外の音は、あっこちゃんがパソコンから出してます。パソコンって、マウスなり、なんなりで、手でやるじゃない? でも、両手ふさがってるでしょ、ピアノ弾いたり、ドラム叩いたり、だから足で、曲ごとに踏みかえて、もうそれは…もうそれは、ベース弾いてるとき培ってきた、エフェクターの切り替えの足の技術によって、なされてます。」
福岡「聴いてもらったらわかると思うんですけど、パソコン使ってるわりには、アナログな音してるでしょ? そうしたいなあって思いが、音にもなってるんですけど。えっちゃんがね、楽器の音の名前を言わずに、”あのネズミみたいな音”とか、言うんですよ。ネズミの音ってどれやろって思うけど、共通認識としてネズミの音は把握しとかなきゃいけないでしょ。ネズミの音はいいよ、とりあえず、今度は”大ネズミの音”とか言い出すんですよ(笑)」
橋本「言ってたね。あっこちゃん”ああ、大ネズミの音な”って。(わかってくれて)優しいなぁと思ってました。」

 12曲目は「Magical Fiction」。この曲から、橋本さんがギターから再びシンセサイザーへ。13曲目「こころとあたま」と「湯気」は、今ツアーではメドレーのようにシームレスに演奏されており、「こころとあたま」の1回目のサビが終わると、橋本さんがシンセサイザーからギターへ楽器を替え、「湯気」のイントロを弾き始める。「湯気」の終盤では、福岡さんのモニター用のヘッドホンが途中で脱落してしまい、スタッフが慌てて元の位置に戻し来るが、一時的にドラムが止まりかけてギターのフィードバックのみになる。ここでも演奏は止めずに、むしろトラブルを楽しむように演奏を続け、オーディエンスからは自然と手拍子が起き完走。

 聴き慣れたバスドラのリズムが流れ始め、福岡さんが「最後はやっぱ、この曲だよね! 最後はベース弾きます!」と言って、15曲目「シャングリラ」がスタート。しかし、ベースが入ってくるタイミングで弾き始めるも、ベースの音が出ない。また、どこかのタイミングで指から出血してしまったようで、何度も指を気にしていた。一旦、打ち込みのドラムを止め、機材をチェックする。この間、橋本さんがギターで「恋愛スピリッツ」のコードを弾いているようだった。福岡さんが「2ヶ月待たせた上に、最後の曲もお待たせしました!」と言って、今度は無事にベースの音も出て、シャングリラを演奏。何度かの機材トラブルがあったが、演奏は全体として疾走感があり、非常に熱く、またオーディエンスの雰囲気もあたたかく、2ヶ月分の想いが形になったようなライブだった。

 アンコールでは、日本の祭りを思わせるような、アクセントが前に置かれたドラムのリズムが流れ、今回のツアー後半から発売されたロングTシャツに着替えたチャットモンチーの2人が再びステージへ。アンコール1曲目に演奏されたのは、スチャダラパーとのコラボ楽曲「M4EVER」。オーディエンスとコールアンドレスポンスをしてから、演奏を始める。元々の音源では、橋本さんと、スチャダラパーのANIさん、BOSEさんが交互にラップをしていくが、今ツアーではスチャダラパーのラップパートは福岡さんが担当している。ドラムは打ち込み、橋本さんがラップの時は、福岡さんは小型シンセを手に持ってベースラインを弾き、逆に福岡さんのラップパートでは、マイクとシンセを交換し、橋本さんがシンセを担当。使用されているシンセサイザーは、KORG製のアナログシンセサイザーあるいはアナログモデリングシンセサイザーのようだった。マイクとシンセを交換するとき、福岡さんと橋本さんの手とコードが絡まる、というかコードがシンセを持つ腕の中に入ってしまって2人が離れられなくなる、という場面もあったが、一度手を外して、うまく交換完了。このときの2人のアイコンタクトも、絆の深さを感じさせた。また、曲中には福岡さんがフロアに降りてラップをするサプライズもあった。今回のツアーで、メンバーがフロアに降りてきたのは帯広公演のみ。

 アンコール2曲目に「満月に吠えろ」を披露して、この日のライブは終了。ここまでは、自分自身の備忘録を兼ねて、客観的な事実の記述を心掛けてきましたが、最後にライブの感想を書かせていただきます。ライブ中に、メンバーが何回も「帯広の人はあったかいなぁ」「優しいなぁ」という場面がありましたが、それは遠征での参加だった僕も感じたことで、「とまらん」で後ろの人が見えやすいように前列の人が屈んだり、「湯気」で演奏が止まりかけたときに自然発生的に拍手が起こったりと、非常に雰囲気が良く、またメンバーもその空気に押されて、演奏が加速していったように感じました。何回か機材トラブルもあったライブでしたが、そのたびに流れが停滞するどころか、むしろシフトが上がっていくようで、バンドのテンションと、それを迎えるオーディエンスの期待と優しさがぴったり合った、素晴らしいライブでした。


チャットモンチーと機械仕掛けの秘密基地ツアー2017
2017年6月29日
帯広 MEGA STONE
セットリスト

01. レディナビゲーション
02. 隣の女
03. 恋の煙
04. バースデーケーキの上を歩いて帰った
05. とまらん
06. いたちごっこ
07. 染まるよ
08. 変身 (GLIDER MIX)
09. 消えない星
10. majority blues
11. TOKYO GIRL (Perfumeカバー)
12. Magical Fiction
13. こころとあたま~湯気
14. 風吹けば恋
15. シャングリラ
アンコール
EN1. M4EVER
EN2. 満月に吠えろ




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橋本絵莉子波多野裕文

 「橋本絵莉子波多野裕文」は、チャットモンチーの橋本絵莉子と、People In The Boxの波多野裕文による、2人組のユニット名および2017年6月21日に発売された、彼らの1stアルバムのタイトル。

 僕はチャットモンチーが大好きなので、この作品を手に取りました。チャットモンチーの橋本さんと、People In The Boxの波多野さんという、非常に個性の強いお二人による作品のため、どのような仕上がりになっているのか楽しみに発売を待っておりましたが、想定を超えて素晴らしい作品です。

 橋本さんはチャットモンチーのほとんど全ての楽曲を作曲していますが、「自分以外の誰かが作った曲を歌いたい」というのが、このデュオ結成の動機であるとのことです。オフィシャルサイトに2人のインタビューとアルバムのセルフライナーノーツが掲載されていますので、そちらもご参照ください。また、カルチャーニュースサイト「CINRA.NET」にもインタビューが掲載されていますので、こちらもぜひ目を通してみてください。このインタビューの中で、波多野さんが「時代を飛び越えた作品ができた手応えがある」と発言されているのですが、このアルバムは流行からは距離を置き、優れた2人のミュージシャンが拘りぬいて出す音と言葉に満たされています。

 では、ここから1曲ずつのレビューです。2017年6月26日に原宿VACANTにておこなわれたアウトストアイベントで、アルバムの制作過程に関する話をいろいろと聞けたので、そちらの内容も適宜引用します。収録楽曲は下記のとおり。

01. 作り方
02. 飛翔
03. 幸男
04. ノウハウ
05. トークトーク
06. 流行語大賞
07. アメリカンヴィンテージ
08. 君サイドから
09. 臨時ダイヤ

01. 作り方

 このアルバムでは、主に橋本さんが作詞、ボーカル、ドラム、パーカッション類、波多野さんが作曲、ギター、キーボード類を担当しています。1曲目「作り方」は、橋本さんがザイロフォン (シロフォン)、波多野さんがガットギター (クラシック・ギター)を担当する、ゆるやかな1曲。1分24秒という短い曲ながら、アルバムのイントロダクションにふさわしく、アルバムの方向性を示しつつ、リスナーの耳をこれから始まるアルバム用にチューニングしてくれます。

 まるで、スタジオに1本だけマイクを立てて録音したデモテープのような、飾り気のない生々しい音質。前述したアウトストアイベントでこの曲のレコーディングにも触れていて、実際のレコーディングもスタジオのブース内ではなく、ロビーにマイク1本を立てて録音したとのことです。

 歌詞は全編英語。この歌詞についても、アウトストアイベントで語っていて、「bridge」は橋本さん、「wave」は波多野さんの名字の1文字目から取っているとのこと。そして最後の「the music」から始まるブロックは歌詞カードには記載があるものの、実際の曲中では歌われていないのですが、「field」はミックスを担当した田中さんをあらわしているとのことでした。

 この説明が無くとも、歌い出しを例にとれば、まず〈the words〉とカッコつきで記載され、wordsがどういうものであるのか、を詩的に表現しているようにも思えます。「bridge」は橋本さん、「wave」は波多野さんを表す、という情報を取り入れ、タイトルが「作り方」であるということも考慮に入れると、パズルがぴったり合うように意味が浮かび上がってきますし、アルバム1曲目にますますふさわしい曲だと納得できます。シンプルな単語が使われ、響きもとても良い歌詞なので、実際に聴いてみて、確かめてください。

02. 飛翔

 イントロ的な1曲目に続く、2曲目「飛翔」は、ミュージック・ビデオも制作されており、アルバムのリード・トラックと呼べる1曲です。

 この曲は転調する部分があり、初めて聴いた時から、その部分がとても耳に引っかかりました。イントロからはヘ長調(F major)で始まるのですが、秒数でいうと1:09あたり、歌詞でいうと「家から小走りで行きたい」の「りで」のところで、ニ長調(D major)に転調します。そして、1:28あたりの「飛翔」という歌詞から、ヘ長調に戻ります。転調というと、それまで短調だった曲がサビから長調になって一気に明るくなる、というような雰囲気を一変させる効果を狙ったものが多いのに、「飛翔」はフレーズの途中でいきなり転調し、リスナーを「えっ?」と思わせ揺さぶるところが特異です。人によっては特に気にならないかもしれませんし、最初は違和感があったけれど、聴きこむうちに耳に馴染んできて何度も聴きたくなる、という人もいるでしょう。こういうちょっとしたズレやこだわりを忍ばせているところに、このアルバムの奥深さがあります。僕自身は、少し耳に引っかかりながら、流れるように自然に転調していくところが、心地よい違和感になっていて、何度も繰り返し聴いてしまいました。

 音楽理論に詳しい方には不要な説明とは思いますが、簡単に説明すると、ヘ長調の部分はFの音(ハ長調におけるファ)から始まるドレミファソラシド、ニ長調の部分はDの音(ハ長調におけるレ)から始まるドレミファソラシドを使って、メロディーができあがっている、ということです。そして、この曲ではヘ長調とニ長調に共通のGとAの音を利用して、いつの間にか転調が完了しています。陸上のリレーのテークオーバーゾーンのように、という例えが適切かはわかりませんが、カチッとわかりやすく転調するわけではなく、少し被る部分があり、独特の違和感を残しつつ、さりげなく転調しています。

 歌詞の面では、「やばいおじさん」という言葉にまず耳を引かれますが、それ以外にも表現が多彩で、チャットモンチーの歌詞とは違う、橋本さんの作詞家としての一面が見えました。以下、歌詞の中で、僕が特に気になった部分を2点挙げて、具体的にご説明します。

 まず、この曲に出てくる2種類の比喩表現。比喩表現で、「~のようだ」と別の事柄と比較して特徴をあらわす方法をシミリ(simile、直喩)、イメージの共通する言葉を並べて特徴をあらわす方法をメタファー(metaphor、隠喩)といいます。例を挙げると、「えっちゃんの笑顔は天使のようだ」がシミリで、「えっちゃんは天使だ」がメタファーです。

 歌詞には「通い慣れた道は私んちの○○」という言い回しが3回出てきます。これは、比喩表現のうちのシミリにあたるわけですが、通い慣れた道を私んちの廊下や玄関だと表現しています。具体的に説明しているわけではないのに、町全体が自分の家の廊下や玄関のような場所、つまり愛着のある故郷を歌った曲であることが分かります。具体的に説明をしていないのに、いや説明的でないからこそ、意味やイメージが鮮やかに広がります。

 もうひとつの比喩表現は「花屋のような服屋に帰りたい」という部分で、こちらはメタファーです。服屋を花屋に例える、お店をお店に例えているわけで、国語の授業でこのような文章を作ったら、良い評価をもらえないのではないかと心配になってしまいますが、「花屋のような服屋」という例えは、イメージや意味の守備範囲が広い、非常に優れた表現であると思います。「花屋」にどのような印象を持つか、というのは人それぞれであり、例えばあまり花屋に行く機会のない人にとっての花屋は、「毎日、前を通るけれど足を踏み入れたことはない、でも綺麗なもので溢れていることは知っている場所」であるかもしれません。この花屋のイメージを服屋に重ね合わせると、一気に歌詞の世界観に厚みとリアリティが増します。

 チャットモンチーでの橋本さんの歌詞は、感情がそのまま言葉と音になったようなものが多く、心にダイレクトに突き刺さりますが、橋本絵莉子波多野裕文での橋本さんの歌詞は、イメージが無限に拡散し押し寄せてくるような、間口の広さがあります。そして、この人にしか書けないな、という個性を変わらずに持っています。比喩表現を例にとっても、常識にとらわれない自由な発想で、今までと耳障りは違うのに、まさに橋本絵莉子さんの歌詞だな、と思わせる言葉の使い方です。

 もうひとつ、ここで取り上げたいのは「もう一度やり直せても 同じことを選ぼうと思う」という一節です。この表現は自然で耳なじみのいいフレーズですが、よくよく聞くと個性的で、良い意味での曖昧さを持っています。こういう仮の話が歌詞に出てくるときは、例えば「生まれ変わってもあなたと恋に落ちたい」というような現状の全肯定か、「タイムマシンがあったらあの時に戻ってやり直したい」のような全否定のどちらかのパターンが多いのに、「飛翔」の歌詞は違います。これまでの自分の選択に納得しているとも言えるし、もっと別のやり方があったかもしれない、という気持ちも同時に見え隠れする語り方です。自分が選んだ選択肢と、その選択をした自分自身に対する愛着と矜持が感じられる、とても力強い言葉のようにも響きます。特にチャットモンチーが好きな人にとっては、橋本さんがこの言葉を歌うことに、ハッとするんじゃないでしょうか。メロディーも、歌詞も、アレンジも、枠をゆるやかに、しなやかに逸脱していく自由が溢れていて、長く聴きこめる1曲です。

03. 幸男

 この曲では橋本さんではなく、波多野さんがメインボーカルを担当しています。この曲は歌詞が前半部分と後半部分で対になっていて、音楽面でのアレンジもそれに対応しているように感じられます。ちなみに読み方は「ゆきお」です。

 まず、「僕には夢がある」から始まる前半部分は、子供の視点から理想の未来を思い描いているようです。歌詞の語り手である「僕」は、飛行機のパイロットになって、いちばん好きな人と結婚して、毎日、食べたいものを食べて、クルマとカメラが趣味、というように、未来の自分を想像しています。おそらく子供らしさを表現するために「ちっさくない、おっきな夢だよ」「なんとかダブリューに乗って 一眼なんとかをぶら下げる」など、微笑ましく感じられる言葉使いが、随所に散りばめられています。

 対して「僕には夢がない」から始まる後半部分は、実際に大人になってからの視点で、語られているようです。これはあくまで僕個人の解釈で、後半部分は語り手が入れ替わり、全く別の男性2人の視点から語られている、という解釈も可能かと思います。ここでは、同一の「僕」が語り手である、という仮定で話を進めます。子供から大人へ、時間の経過をあらわすためなのか、前半部分の言葉使いに比べると、シンプルで飾り気のない語り方になっています。歌い出しの「僕には夢がある」と「僕には夢がない」という組み合わせをはじめとして、前半部分と内容が対になる構造です。パイロットになって「毎日、見たことない、景色を見る」と歌われていたところは「毎日、見慣れた、景色を見る」になり、「いちばん好きな人と結婚して 毎日、食べたいものを、食べる」の部分は「どうでもいい人と会話して 毎日、どうでもいいものを、食べる」と変化しています。

 前半と後半で一変している歌詞の中で、唯一変わらない部分が、最後の「僕は幸せ者」です。わざわざ説明するまでもなく、説明すると陳腐になってしまいますが、「幸男」というタイトルも象徴しているように、この曲は子供のころに考えていた大人にはならなかったけれど、それでも幸せ、夢があろうとなかろうと何気ない毎日が幸せ、ということを歌っているんですよね。しかし同時に、ありふれた幸せに気づくことが大切なんだよ!といった説教くささや、押しつけがましさが、全くない。「僕には夢がない」「どうでもいい人と会話して」など、一聴するとネガティヴな言葉が並んでいるのに、最後の「僕は幸せ者」という言葉のおかげで、優しく奥行きのある曲になっています。

 アウトストアイベントで、橋本さんはこの歌詞ができたとき、すぐにこの曲は波多野さんに歌ってもらおうと決めた、という話をされていました。確かに一人称が「僕」の、このような視点の曲はチャットモンチーには見当たらず、まだまだ作詞家として別の引き出しがあるんだな、と脱帽します。

 この曲はイントロから前半部分までは、アコースティックギターとドラムを中心にしたシンプルな構成ですが、1:50あたりからの後半部分は、ドラムの手数が増え、エレキギターが入り、アレンジが立体的になります。3:39あたりからは押しつぶされたような独特の音色のディストーションギターが出てきたりと、歌詞の面では後半の方がシンプルなのに、音楽面では起伏が大きく、チャットモンチーのオルタナティヴ性、People In The Boxのポストロック性が顔を覗かせます。歌詞はありふれた日常を歌いながら、サウンドとアレンジは激しい部分も取り入れて前半より複雑にしたのは、何気ない毎日にもいろいろある、ということを言葉ではなく音に込めたんでしょうかね。

04. ノウハウ

 2曲目「飛翔」、3曲目「幸男」は、2人が同時に演奏できる以上の楽器がオーバーダビングされていますが、4曲目「ノウハウ」は、橋本さんのボーカルと波多野さんのピアノのみのシンプルな構成です。「飛翔」と「幸男」は、前述のとおり楽器がいくつか重ねられていて、アレンジも聴きどころが多い曲だったので、「ノウハウ」のピアノのみの演奏は、メロディーと言葉がよりダイレクトに耳に入ってきます。アウトストアイベントでの話によると、デモ段階での仮タイトルは「ピアノ」だったとのこと。

 橋本さんのブレスの音も、音楽の一部のようにレコーディングされていて、前述のとおり伴奏はピアノのみの少ない音数ながら、いつの間にか集中力を傾けてしまう曲です。イントロから、ピアノもボーカルもゆったりとしたテンポで進みますが、ちょうど1:00あたり、歌詞でいうと「小さな君も」の部分から、ピアノの右手が8分音符、左手が4分音符で弾き始めて、それまでに比べるとビートが感じられるようになり、ボーカルのメロディーラインと併せると、ゆるやかにグルーヴ感が生まれ、加速していくように感じます。言葉も音も、ひとつずつゆったりと大切に紡がれていくのに、フレーズの最後の「好きよ」はサラッと流れていくようで、思いのほかあっさりしています。音の数は少ないのに、加速と減速、グルーヴ感がしっかりと存在していて、とても表情豊かな1曲です。個人的には「好きよ」の部分で、音楽の世界からフッと我に返るような感覚があり、「今いい音楽を聴いているな」と噛みしめられるポイントです。

05. トークトーク

 この曲もミュージック・ビデオが制作されており、「飛翔」と並んでアルバムのリード・トラック的な位置づけの1曲です。この曲はアルバムの中で唯一、作詞作曲ともに波多野さん。作詞作曲ともに波多野さんが手がけているのが理由かは分かりませんが、アルバムの中で最も言葉とメロディーと音が、一体化しているように感じます。

 アナログレコードのノイズを再現したような音質のエレキギターのみのイントロから始まり、0:11あたりでボーカルが入ってくるところからはアコースティックギターとベースのみ。0:28あたりから、主に左チャンネルからトライアングルの音が入ってきます。それぞれの楽器は手数が多いわけでも、わかりやすくテクニカルなことをやっているわけではないのに、音が幾重にも押し寄せてきて、とても情報量が多い曲です。どの楽器がどのタイミングで入ってきて、いつまで鳴っているか、どういう演奏をしているか、聴くたびに発見があります。

06. 流行語大賞

 アルバムの中で唯一、作詞を波多野さん、作曲を橋本さんが担当。5曲目「トークトーク」と、この「流行語大賞」以外の曲は、全て橋本さんが作詞、波多野さんが作曲を担当しています。

 イントロのピアノの音が印象的ですが、よく聴くとピアノと同じ旋律をザイロフォンがなぞっているのか、やや金属的なパーカッシヴな音が含まれています。そのためか、「ノウハウ」でのピアノの音に比べると、少しチープというかジャンクというか、かなり耳触りが違って聞こえます。このあたりも2人のアイデアなのでしょうが、実にマニアック(笑)

 この曲は、各楽器の音の配置と、音質が好きです。音の配置と書いたのは、各楽器がスピーカーやヘッドホンのどのあたりから聞こえてくるか、音質というのは、どういう音で鳴っているのか、というサウンド自体のことです。それぞれの楽器はきっちりと分離して聞こえるのですが、各楽器が有機的に絡み合って、まるで生き物が呼吸をして躍動しているように生き生きと感じられる音楽です。特に2:54あたりからのアンサンブルがとても鮮やかで、いきなり目の前の世界がぱっと広がったように感じます。

 この「流行語大賞」も、5曲目の「トークトーク」もですが、波多野さんの歌詞は、意味がつかめそうでつかめない、つかまえたと思ったらもっと遠くに行ってしまうような、不思議な魅力がありますね。「流行語大賞」の歌詞も、「本」や「図書館」は、過去になった出来事や言葉をあらわしているようにも聞こえるし、タイトルが「流行語大賞」であることも考慮に入れると、なにげないことを歌っているようで、普遍的なことを歌っているように聞こえます。

07. アメリカンヴィンテージ

 この曲はなんといっても、アレンジが素晴らしいです。アコースティックギターのアルペジオを中心にした伴奏の上を2人がデュエットしていき、徐々に楽器が増えて、グルーヴが深みを増していく、という流れはここまでの収録楽曲にもありましたが、この曲はさらにシフトをいくつも上げていきます。曲後半、一度楽器の数が減り静寂に近づくのですが、3:55あたりから、徐々にノイズ要素のある音が増えていき、穏やかなボーカルのメロディーに覆いかぶさるように、次々と音が押し寄せます。個人的にこういう、一般的なポップミュージックからは除外されてしまう要素を取り入れた音楽が大好きなので、この「アメリカンヴィンテージ」も初めて聴いたときから、アルバムの中でお気に入りの1曲です。サウンド的にはノイジーで、不協和音も満載なのに、曲の流れのなかで聴いていると、無理せず受け入れられ、心地よささえ感じられる、ポップミュージックになっています。

 歌詞は「海にアイロンをかけながら」という表現が秀逸。橋本さんは本当に比喩表現が巧みで、こういう部分はチャットモンチーではあまり表出していなかったかも、と思います。アイロンをかけるように目の前に広がる海全体をじっくり見渡しながら、船や太陽を待っている、その情景と心情が、具体的な状況説明以上に伝わります。「黒髪の先生」と「金髪の外国」というコントラストも、似た単語を対応させるように使っているのに、身近な黒髪の先生から、遠い海の向こうの金髪の外国へ、イメージと距離が一気に飛躍するところが、見事としか言えません。

08. 君サイドから

 歌詞に「君サイドから再生します」と出てくるとおり、語り手の心情と状況を、カセットテープかレコードに例えているようです。この歌詞も「ふじ色のさるすべり」「そこが私の家」という具体的な記述もある個人的な歌であるのに、意味が限定的ではなく、イマジネーションを刺激されて、歌の世界にスッと入っていけます。「君サイドから再生します」という一節も、単純に君の立場からある物事を思い出しますという意味にも取れるし、レコードはA面(A side)とB面(B Side)のどちらか一方しか一度に再生できない、けれども両サイドを合わせてレコードである、とイメージを膨らませると、歌詞の中の「君」と「私」は誰で、どういう関係性なのか、というところまで、世界観が広がっていきます。

 表裏一体の「君」と「私」が誰なのか、というのは、大学の文学部のゼミで議論してもいいぐらい、深く広がりのある表現になっていると思います。橋本さんは2013年に男児を出産されているので、母親が子供のことを歌っているようにも聞こえますし、過去の自分との対話と解釈しても意味が広がりますし、古い友人や恋人という解釈も無理なく成り立ちます。この曲に限らず、アルバム全体を通してですが、橋本さんの歌詞は個人的なものであるのに、言葉と歌詞全体が限定的ではなく、想像力を働かせることができる余白があるのが、非常に心地いいですね。

09. 臨時ダイヤ

 リズムのアクセントが、ロック的なバックビートではなく、前のめりになっていて、阿波踊りや盆踊りのように手でリズムをとる日本の踊りを感じさせます。しかし、完全に阿波踊りかというとそうではなく、懐かしさとオシャレな雰囲気が同居する、無国籍な仕上がりになっています。インタビューとアウトストアイベントでも語られていますが、もともと波多野さんが作ってきたデモ段階では、もっと阿波踊りらしさが前面に出ていたアレンジだったものを、橋本さんが阿波踊りらしさを排除したくて、こういった完成形に辿り着いたとのことです。

 このアルバムの中では、ビートがはっきりしていて、最もノリやすい曲と言っていいでしょう。ただし、わかりやすく4つ打ち、わかりやすい8ビート、のようなリズム・フィギュアではなく、リズムが伸縮しているように感じるような、自由で楽しいリズムです。ライブでの曲に合わせた手拍子ではなく、盆踊りで少しタメを作って手拍子するようなイメージでリズムを取ると、曲のリズムを感じやすいと思います。

 歌詞は、前半部分は閑散期の臨時ダイヤで人がいない街、後半部分は祭りの時期で臨時ダイヤが組まれ人が集まる街が、対比的に描かれています。橋本さんが徳島出身であることから、阿波踊りを連想しますが、その予備知識なく聴いても、表現のみから世界観の広がる楽曲です。

アルバム全体のまとめ

 実験的な要素も多分に持っていて、いわゆるヒットチャートに乗るような音楽からは距離があるのに、全てが自然で、端的に言ってポップで、聴いていて楽しい音楽です。これは、本当に奇跡的なことです。「飛翔」での転調や、「アメリカンヴィンテージ」の後半でのジャンクでノイジーなアレンジなど、普通とは違う音を使いながら、それが実験のための実験になっておらず、全てが良い音楽を作るための意味あるパーツとして、機能しています。手段と目的が逆転している部分が、ひとつも無いんです。

 また、橋本さんがアウトドアイベントで、「飛翔」の歌詞ができあがったとき、あまりにも個人的な歌なので、他の人に理解されるのか、どういうふうに届くのか不安だった、という話をされていました。リスナーとして、完成した作品を聴いてみると、確かにパーソナルな歌であるのはものすごく伝わるのですが、息苦しさが全くなく、言葉に余裕と奥行があります。誰が聴いたとしても、想像力を羽ばたかせることができる作品です。

 このレビューを書こうと思ったきっかけは、前述のアウトドアイベントでの橋本さんの発言です。「個人的だから、届くか不安だった」とのことですが、あなたの作品は非常に優れていて、多くの人に何かしらの感動を与えていますよ、少なくとも僕は多すぎるほどのメッセージを「飛翔」1曲から受け取りました、ということを書きとめておきたいと思いました。レビューの中でも何度か書きましたが、間口が広く、歌詞の意味は広く、サウンド的にも聴けば聴くほど発見がある、何十年も楽しめる作品です。ぜひ1人でも多くの人に聴いていただきたいと思っています。


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チャットモンチーについて、楽曲レビューやライブレポートを書いています。